りぅの風森

第26話

第26話 動き出す者達

バハムートが世界征服をしなくなった後に起きた
雷竜族の国サーンリデアが滅んだ事件は、世間で大きく騒がれた。
同盟を組んでいたはずの元ドラグーン王国であるドラグレッサにもその話は流れた。
「サンライズが滅びたですって?」
バハムートは煙管を咥えながら王座に肘をつく
「バハムート様、誠に申し上げますが今はサンライズではなくサーンリデアですよ・・・。」
バハムートの前に翡翠色のもふもふした竜が伝えた
「そういえばそうだったわね、それで?一体何が起きたのかしら」
「詳しくはわかりませんが、王都では雷竜と人間の亡骸がいくつもあったそうです、この事から人間が国を滅ぼした可能性があります」
「人間が雷竜を狩り殺したというの?」
「あくまで状況判断です、あの国には人間は住んでおりませんから・・・・」
「バハムートよ、確かあの国にはアシュラの祖父が住んでおったはずじゃ」
そう言ったのはバハムートの一番の側近ルイリヒトだ
ルイリヒトは今バハムートに仕える竜達の中で最も古くから仕えている
バハムートはルイリヒトに視線を向けた
「そうなの?」
「今も生きているならサーンリデアから少し離れた小屋にいるはずじゃ」
「だそうよ、確認してきてもらえるかしらシェイラス」
翡翠色のもふもふした竜の名はシェイラスというらしい
最近になってバハムートに仕えるようになった新入りだとか・・・・・
「分かりました、すぐに確認して参ります」
一目散にその場を後にするシェイラス

一方その頃、ガリシィルはリュリカのもとに帰ってきていた

ライバリオンに渡さた剣を机に置き
サーンリデアで起きたことをリュリカに話した後だ
「というわけなんだ、どう思う?」
「そんなこと私に言われても困るわよっ それよりあなた、父親らしくミゲルに魔法の一つや2つ教えてあげなさいよ」
そういうリュリカの後ろで幼い竜が必至に魔法書を読み返していた
その幼い竜こそリュリカとガリシィルの間に生まれたミゲルであった
この時すでに5歳であるミゲルは未だろくに魔法が扱えずにいた
ガリシィル、リュリカ共に5歳の頃は魔法をバンバン撃っていた年齢ではあるのだが・・・・・・。
「お前が教えたらいいだろう」
「あのね・・・私だって教えてるわよ、でも炎の魔法は得意じゃないみたいなの」
「補助は?」
「それはもっとダメ、回復魔法も出来た試しがないの」
「うーむ・・・・教えろつったってなぁ、基本形である炎の魔法がうまく出来ないんじゃあ、他を教えてもダメだと思うぞ」
「私は炎の魔法しか基本扱えないの、それならまだ色んな魔法ができる貴方が教えた方がいいと思うのよ」
「はぁ・・・・メンドクセェ」
「子育てもロクにしないんだから、それぐらいやりなさいよっ!!」
リュリカは怒鳴る
「あー もう分かった、分かったから落ち着けよ」
ガリシィルはリュリカを静めミゲルの側に寄った
「ミゲル、今日は特別に俺が教えてやる」
「本当ですかっ」
「あぁ、とりあえず家の中じゃあれだし、外に出ろ」
そういうとガリシィルはミゲルを外へ連れだした
家の前で始めるのかと思えば、ガリシィルはそのまま足を進める
「父上、何処へ行くのです?」
「いいから黙って着いて来い」
ガリシィルに言われてミゲルは後を付いてくる
やがてガリシィルがきた場所は 海鳴りの洞窟だった
「ここは海鳴りの洞窟ですよね?」
「そうだ、ここである人に会ってもらう」
「え? 父上が魔法を教えてくれるのではないのですかっ」
「あぁそれはちゃんと俺が教える、だがお前に見せたい奴がいる」
そうしてガリシィルとミゲルは海鳴りの洞窟内に入った
その洞窟内には 久しく剣の修行しているオードの姿があった
ヴェルファシスの村に住む彼だが、こうして未だにこの場所にやってきては剣を振るい続けているらしい
「父上、会わせたい人ってもしかしてオードさんのことですか?」
「なんだ知ってるのか?」
「知ってるも何もこのドラゴンズスピークでは有名人ですよ」
「そうなのか?まぁいい、おーいオード」
ガリシィルに声をかけられて剣を鞘に戻すオード
「久しぶりだなガリシィル、今日は珍しく息子と一緒か?」
「あぁ、実はこれからこいつに魔法を教えようと思ってな、ついでに一緒に見てくれないか?」
「おいおいわしは魔法は使わんぞ?、忘れたわけではあるまい」
「いいから頼むぜ爺さん」
「まぁ・・・見るだけならいいじゃろ」
そうしてオードが見守る中 ガリシィルはミゲルに様々な魔法を教えた
その過程で分かったのは魔法は使えるものの戦闘ではクソ役に立たない程度の魔力しかミゲルにはない事が分かった
ただミゲルはまだ子供なのでいずれそれなりに魔法が使えるかもしれない

「父上どうしたらいいんでしょうか?」
「魔力がないんじゃどうしようもないだろ、魔力は特訓したところですぐに増えるようなもんじゃないからな」
「そんな・・・これではいざという時に戦えないってことじゃないですか」
「別に魔法がすべてじゃねーよ、そこの爺さんは魔法は使わないが剣の腕だけは一流だぜ」
「そうなんですか?」
「自分で一流というやつはおらぬよ、でもわしが生きるにはこれしかなかったからの、どれお主も剣を使ってみるか?」
オードは自分が持っていた剣をミゲルに渡してみせた
「これ、どう扱うんです?」
「なぁに振って切るか突くの2択じゃよ、いや・・・・投げるという手もあるかのう」
「はぁ・・・・」
この時ミゲルは剣を握ったのが初めてだった
いつもは過保護な母リュリカと共に過ごしているせいで、戦いなど無縁だったからだ
「そうだ爺さん、こいつに剣術の戦い方を叩き込んでやってくれないか?」
「何を言うんじゃ、戦い方ならお主が教えればよかろう」
「俺は剣術は使わねぇ・・・・・」
「では父上はどうやって闘うのですか?」
「俺が使うのはこれだ」
ガリシィルはドラグレアイーグルを取り出すとミゲルに見せる
それを初めて見たミゲルは驚いた
「それは確か・・・・聖戦器?、初めて見ました、やっぱり父上も聖戦竜の血を引いておられるのですね」
「お前が生まれてからこいつを使う機会がないからな、それに・・・お前は俺とリュリカの血が流れているんだお前も立派な聖戦竜の子孫だ」
「では何故魔力がないのでしょうか」
「それは・・・」困るガリシィル
「まぁ気にするなミゲルよ、で、どうするんじゃ」
「オードさん、私に剣術を教えてくださいっ お願いします」
頭を下げてオードに頼み込むミゲル
するとオードは一息つくとしぶしぶ承諾した
「よかったなミゲル」
「はい、できれば父上からも教わりたいのですが・・・・・」
「今はダメだ」
「そんな、どうしてですかっ」
「それは・・・・」
ガリシィルは胸に右手をおいた。
ガリシィルはある病に侵されていた
バハムートとの死闘を繰り広げた後、本格的に療養生活をしているにもかかわらず未だに治る気配はない
リュリカもいろんな治療法を探っているものの有効な薬も見つけられていない。
するとオードはここでようやく察したのかミゲルに声をかける
「ミゲルよ、焦ることはない、まずはわしが教えてやる、ガリシィルから教わるのはその後でもいいじゃろう」
「そう・・・ですね、分かりましたオードさん、お願いします」
「悪いなミゲル、じゃあオード後は頼んだぞ」
「お前さんも早く治せよ」
「・・・・・治す?」
ミゲルは首を傾げた
「ミゲル気にするな、それじゃあ俺は先に帰ってるぞ」
そう言ってガリシィルはその場を後にした
ミゲルはこうしてオードから剣術を教わり始めた

後に彼はオードに次ぐ剣聖と成長を遂げることになる。

それから2年が過ぎた
丁度、雷竜の国が滅んでから2年と3ヶ月ぐらいになるだろうか
北の大陸では至る所で黒竜達が色んな町を襲うようになった
そしてそれはドラゴンズスピークも例外ではない

フレアストームッ!

激しい炎が黒竜達を襲った
悲鳴のような声を上げて何匹かは地面に倒れる
「ったく、いきなり襲ってくるなんて一体何なのっ」
そう口にしたのはリュリカだった。
すぐそこの道具屋に買い出しに行っていたのだが
いきなり黒竜の群れが西の空からやってきたと思えば、居合わせたリュリカを襲ったのだ
しかし相手が悪かった、リュリカはフレアの子孫・・・・・その魔力に黒竜は手も足も出ない
黒竜の悲鳴を聞いてすぐ近くにある自宅からガリシィルが飛び出してくる
「何の騒ぎだ」
「見れば分かるでしょっ 黒竜達が襲ってきたのよっ」
黒竜達に指をさすリュリカ
ガリシィルは倒れている黒竜達に視線を下ろした
「・・・・俺にはお前が一方的に絡んだようにしか見えないのだが」
「なんですって!!」
そんなやりとりをしていると黒竜は
一言も喋らず突如標的をガリシィルに変えて襲い掛かり始めた
ガリシィルは黒竜達の攻撃を容易く回避する
「なんだこいつら、口が利けないのか?」
「ガリシィルっ 伏せてなさいよっ!」
リュリカが両手を前に掲げる

フレイムバーストッ!

「馬鹿っお前っ うわぁぁ」
リュリカの両手から放たれた巨大な火炎の渦はガリシィルをかすめて黒竜達を飲み込み空高く上がっていった
そして大爆発を引き起こす
「容赦無いな・・・・・」
その様子を見上げてガリシィルは言った
「それより私達に襲いかかってくるなんて信じられないわ」
倒れた黒竜の元に近寄るリュリカ
すると倒れている黒竜が一瞬にして灰になって消えていく
その様子をみていたガリシィルはリュリカの肩を掴んだ
「お前、いくらなんでもやり過ぎだぞ・・・・・」
「これは違うわよ! 私が放った魔法は瞬間的に灰にすることは出来ないわ!」
「・・・・・こいつら、本当に黒竜だったのか?」
そこへオードとオードのもとで修行を重ねるミゲルが駆けつける
「父上っ、母上っ ご無事でしたかっ」
「俺達は無事だ、それよりオードも連れてどうした?」
「ガリシィルよ、ドラゴンズスピークの至る場所で黒竜が襲ってきている、今のだけではないんじゃ」
「なんだと?」
「俺達の前にも黒竜が現れたんですっ それらはオードさんがすべて倒してくれましたが・・・・・・」
「黒竜の奴ら・・・・一体何様のつもりかしら、村まで押し掛けましょうよガリシィル!!」
「村ってお前・・・黒竜の村まで行くのか?」
「そうよ、向こうから仕掛けてきたのだから当然よ」
「リュリカよ落ち着くんじゃ、今回の件・・・おそらくただ者ではないぞ」
「どういうことよオードさん」
「私が知る限り今の黒竜は魔法により創りだされた者じゃ、かつて世界を震撼させたヴォルアの術に似ておる」
「・・・・・誰だそいつは?」
首を傾けるガリシィル
同じく頭上に?の文字が出るリュリカ
「私も聞いたことがないわね・・・・・」
するとオードは頭を抱えた
「そうじゃった・・・・・知らないのも無理もない、これは大昔の話じゃ」
「そんなことより、魔法で生物が作れるというのか?」
ガリシィルの問にオードは大きく頷く
「そうじゃ、倒された黒竜は灰となって消えたじゃろ?」
「確かに灰になったが、それはリュリカの魔法が強すぎたんじゃないのか?」
「だーかーら私はそんなに強い魔法使ってないってばっ!!!!」
「魔法で創りだされた生物は生命活動が途絶えると跡形もなく消えるんじゃ、それも一瞬でな」
「・・・・で、心当たりがあるのかオード?」
「いや、残念ながら、でも創られた生物が黒竜だということはやはり黒竜に関係しているじゃろう」
「じゃあやっぱり黒竜の村に行くしかないわね」
「まてリュリカ、俺はまだ全力を出せない・・・・・下手に村に行くのはよそう」
「でもあなた、このまま放っておいていいの?」
「狙いが分からない以上仕方ないだろう」
「・・・・それもそうね」
そして俺達は黒竜の村には行かなかった
その後ドラゴンズスピークには黒竜が襲ってくることがなかったからだ

しかし ある村では大変なことが起きる

ドラグレア大陸の北西にある竜族の村『イルス』
ここにはたくさんの竜が住んでいるだけでなく、ドーランの街にもある学校のようなものが存在する。
そのためイルスの村以外からも多くの竜が度々やってくる

「ガシエル!ガシエルってばっ!」

人間でいう10歳ぐらいの♀の仔竜が村の北にある野原で寝ているガシエルをたたき起こした

ガシエルは後にルイ達と旅をすることになるチョロの本当の名前である。
こいつは訳あってハムスターの血を受け持つ通常では考えられない生き物だが
全身はクリーム色の毛で覆われていて特別に長い尻尾を持っていた
そして翼が生えていない、体毛がなければ人竜のような感じだが これでも地竜族である。
父は極普通の地竜族だが、母はハンター組織『リジェル』によって遺伝子組み換えの実験を施された生物だという
ハムスター血を受け持つのはどうもその辺が絡んでいるようだが、ガシエルは母との面識はないのであった。

「う~ん、なんだっていうんだアサナ? 人が折角気持ちよく寝ていたというのに・・・」
ガシエルは身体を起こすと砂埃をはらった
彼を起こした仔竜はアサナというらしい。
ガシエルと同じふさふさの体毛をしているが彼女には翼があった。
「学校が始まっちゃうよ?いいの?」
「あぁ、そういえば今日は村外から魔法を教えに特別な教師が来るんだっけ?」
「そうよ」
「ふ~ん、まぁ、行ってみるか」
そういうとガシエルはアサナの腕を引張り村のやや北の方にある学校を目指した。
ガシエルとアサナは近所に住んでいて、まるで幼馴染のように親しかったのだ。
野原を下ると校舎の裏手にたどり着く、村の西には近くに海岸があって、
普段は海竜族もちょくちょくと顔を出していたのだが、今日はやけに静かだ
授業の開始を告げる鐘の音が鳴り響き、ガシエル達は教室へと走った
「遅れてすいませんっ!!」
ガラッ
大きく扉を開けて入るガシエル、後ろからアサナがゆっくりと入った
そして辺りを見渡して首をかしげた
「あれ、おかしいな誰もいないぞ」
いつもは生徒で溢れる教室が今日は誰もいない
生徒だけではない教師もいなかった。
「変だわ、いつもならこの時間帯にはもう皆が席について出席を取ってるはずなのに」
しばらくして2匹に続いて15分ほど遅れて海竜族の子供が猛ダッシュしてやってきた
「はぁ・・はぁ・・・・海からここに来るのは疲れるぜ」
息を切らして扉に手を掛ける
「今日も大分遅れたわねぇ、アドウィン」
「アサナか、驚かすなよ、ところで他の生徒の姿が見当たらないんだが?」
「それが誰もいねぇんだ、教師もな・・・・。」
ガシエルはそう言った
「まさか、今日は休みだったのか・・・」
「いや、それはないわね」

と、その時だった

南の村家の方から次々に黒色の煙が上がっていくのが見えた
「アサナ、あれって火事って奴じゃ?」
「にしても凄い数の煙よ、なんだか変だわ、村家の方へ行ってみましょう!」
そういうとガシエルとアサナとアドウィンの3匹は火の手が上がる家の方へと向かった。

家の方から次々に黒色の煙が上がっていくのを見て学校をとび出したガシエル達
急いで煙が出ているところに向かうとそこには無残に切りさかれた竜がたくさん倒れていた
まるで、何か後ろから襲われたかのように皆背中から夥しい血を流して倒れていたのだ
「お、おい、大丈夫かっ!」
ガシエルが必死に身体を揺するがその竜はすでに息絶えていた
「一体何があったんだろうな?」とアドウィン
「分からないわ、私が野原に向かった時はなんともなかったのに・・・・」
アサナはそう言った
ガシエルは辺りを見渡している
「ん・・・ヤバイっ! 皆伏せろっ!」
ガシエルがアサナを庇った
すると後ろから爆発音とともに蒼い炎が火柱を上げた
「な、なんだ!?」
アドウィンは爆発を見て何かを感じた
「こ、これは・・・・」
「どうしたアドウィン」
「ガシエル、これは魔法による爆発だ、まだ近くに術者がいるぞっ!」
するとガシエル達の頭上から大きな影が覆う
「なんだっ!?」
ドォォンッ
爆発音が鳴り響き、瓦礫が飛び交った
だがそれらはガシエル達には当たらなかった
ガシエル達を庇って瓦礫を凌いだ大きな身体をした竜が立っていた
「大丈夫か、皆っ!」
「父さんッ!」
そう言ったのはガシエルだった、どうやらガシエル達を助けたのはガシエルの父親のようだ
「シハードおじ様っ!?、・・・・凄い怪我っ」
「私のことは気にするな、それよりお前達、早くこの村から逃げるんだっ!」
シハードは傷口を抑えて言った
「シハードさん、一体どうなってるんだ、学校も誰一人いないし・・・・」
「いいかお前達、落ち着いて聞け、2年前雷竜族を滅ぼしたという竜族を狩るハンターがこの村にもやってきたのだ」
「なんだって!?」
3匹は驚いて口を開けた
「皆はすでに隣町に避難したがすでに手遅れかもしれん、ほとんどのハンターは皆の後を追った、お前達は海の方に向かえ」
「海の方だって! そんなの背水の陣だよ」
「心配はするな海竜族に話をつけてある、お前達を待っているはずだ、彼らなら安全な場所に連れて行ってくれるだろう」
「父さんは!?」
「俺はお前達を逃がすため、奴らをここで食い止める」
「冗談いわないでシハードおじ様、そんな傷だらけの身体で戦えるはずがないわっ!」
「アサナ、ここはシハードさんの言うとおりにするんだっ!」
アドウィンはそう言ってアサナの腕を引張った
「父さん、死なないでくれよっ!」
「・・・・・・いいから行け、奴らが気づいていないうちに」
シハードはそういうとガシエル達に背を向けた
シハードの大きな身体がガシエル達の存在を隠していた
「生き残りがいたぞっ! 殺せーっ!!」
向こうの方からハンターの声が聞こえた
「父さんっ!」
「ガシエル、お前もくずくずするなっ! 早く行くぞっ!」
アドウィンはアサナとガシエルの腕を引張り、海の方へと向かった
「ガシエル、どうか生き延びてくれ、サイリア・・・・もうすぐお前に会えそうだ」
ガシエル達を見送ったシハードは目を瞑った
「お前がどうやら最後みたいだな」
そこにやってきたのは 雷竜族の国を滅ぼした ハンター組織『リジェル』の創始者であるクリスとその部下達
クリスはシハードの前に詰め寄った
他のハンターの手にも竜の皮膚をも切りさく剣『ドラゴンキラー』が握られている
「・・・・・俺を殺すつもりか?」
「それが俺達の仕事だからな、それにお前は俺達(リジェル)の実験動物を逃した罪もある」
そう言って一人のハンターが前に出た
「クリス・・・・お前の身勝手な実験でどれだけサイリアが苦しんだか・・・・分かるか?」
「さなぁな、悪いが死んでもらうぞっ! やれっ」
ハンター達は一斉にシハードに飛び掛った
「俺を易々と殺せると思ったら大間違いだっ!!!」

そして大きな爆発が起こった

その爆発音は海の方に逃げているガシエル達の耳にも聞こえた
「父さん!?」
「シハードおじ様っ!?」
「振り返るな2人ともっ!、俺達は生き延びなければいけないんだ、それがシハードさんの願いだろうっ!」
「・・・・っ」
アドウィンに言われてアサナとガシエルは走った
しばらくすると海岸が見えてきた
そこにはシハードが言ったとおり、海竜族達が待っていた
アドウィンの家族も目に映る
「アド、お前も無事で何よりだ」
「遅刻したおかげって奴かもな、それより父さん俺達を安全の場所へ、多分ハンター達がこっちに来る」
「そうか、ならば急がねばならんな、お前達この子達を安全な場所に避難させろ」
アドウィンの父親は海竜族の長だった、皆に指示を出す
アドウィンは海に飛び込んだ、泳ぎは下手だが海竜族だから特に溺れる心配ない
ガシエルは大人の海竜族に連れられて海へと入った
アサナは翼があるのでそのまま後を付いていく
「皆の者っ!、西の大陸を目指すのだっ!」
長はそういった
西の大陸(アルデシアではない)には多少の人間がいるが、ハンターはいないとされていた。
まさに今の時代で最も安全の大陸である。

そうしてガシエル達はハンターに狙われずに、西の大陸へと渡った
海竜族達の協力を得て・・・・。

やがてジハードを倒したハンター達が海岸の方にやってくる
「海竜族か・・・・海を渡られたんじゃ俺達では後は追えんな・・・・・数匹逃したか?」
そこへ北の方から1匹の黒竜がやってくる
するとハンターの一人は手を振った
「おーい、ここだ」
黒竜はハンター達を見つけてその場に降りてくる
「素材は?」
「お前達のほしがってる素材はあるかわからねぇが、村の方にたくさん転がってるぜ、それよりお前も変わりもんだな。竜の死体を集めるなんてとても正気だとは思えないぜ」
「バハムートを倒すためにアルジェス様が必要としている、村の生き残りはいないよな?」
「すまねぇ、何匹か逃がしちまった、海竜族が手を貸したようだ」
「・・・・・仕方がない、そっちにはコピー達を向かわせる、逃がした中に目当ての素材がいるかもしれないからな」
すると黒竜は地面に手を置いた、その瞬間 黒竜が数匹現れた
その黒竜達はガシエル達が逃げた方角へと飛んで行く。
「これでよし・・・・」
「ところでお前達がほしがってる素材ってなんなんだ? あの村には地竜と海竜ぐらいしかいなかったぞ、個人的用もあったし別に構わねぇが」
「お前達には関係のないことだ、それより雷竜族を滅ぼしたそうだな、何を企んでいる?」
「別に何も?、個人的依頼を受けて実行したまでだよディーザス」
その黒竜の名はディーザスというらしい
彼もまたアルジェスの部下である。
「クリス、あまり目立ったことはするなよ」
「それはお互い様じゃないか? まぁ資金も十分溜まったし、俺達はそろそろ活動を抑えるつもりだがね」
「・・・・・好きにしろ」
そういうディーザスは滅びた村の方へと向かった
それを見送ったクリスは口を開く
「フンッ いずれこの世界を統べるのはアルジェスじゃない、この私だ・・・・・・」
「クリス様、今後はどうします?」
「各地に散る幹部共を本部に呼び戻せ、各実験の進行状況を把握したい・・・結果次第によっては私自身を改造する」
「分かりました、すぐにお伝えします」

場面が代わって
ハンター達から無事に逃れる事ができたガシエル達は西大陸へたどり着いていた
「ここまでくれば多分、大丈夫だ」
そう言ったのはアドウィンの父
「ありがとうございます、ほんとに助かりました」
礼を言うガシエル
「では私達はこれで失礼するよ」
そういうとアドウィンの父は他の海竜達を連れて海に潜ろうとした
アサナが呼び止める
「ちょっとまってください、私達はこれからどうすればよいのでしょうか」
「・・・・・さぁな、私達の住処はこの海だ、お前達と共に暮らしてやりたいがそうも言えない」
「確かにそうですけど・・・・こんな知らない土地に連れて来られても困ります」
「アサナ、これ以上アドウィン達に迷惑は掛けられないぜ、助かっただけでもいいじゃねーか」
「ガシエルは平気なの? もう私達の知る村には戻れないし」
「・・・・・それはそうだけどよ、とりあえず町を目指そうぜ、訳を話せば誰か助けてくれるさ」
「そう・・・かしら?」
するとアドウィンが口を開いた
「しょうがない奴らだ俺も付いていくぜ」
「アド、何を言い出すんだ!? お前は地上で暮らすつもりか?」
「悪いけどよ父さん、俺・・・泳ぎは得意じゃないんだ、ここまで一緒にこれたのも奇跡だぜ?」
そういってアドウィンは陸地へ上がった
「だがなお前・・・・」
「それに、こいつらを放ってはおけねぇよ」
「・・・・仕方ない、お前にこれを渡しておく」
するとアドウィンの父はブレスレッドのような物をアドウィンに手渡した
アドウィンは驚いた
それはいつも父が一時も外さず大切に装備していたアイテムだったから
「これは!?」
「ジェイドブレス、装備する意志に反映して武器にも防具にもなる魔法の腕輪だ」
「どうしてこんなものを俺に?」
「・・・・餞別だよ、元気でなアド」
「ありがとう父さん」
「私達はこの海のどこかにいる、また会うこともあるだろう。 ではな」
そういうとアドウィンの父と他の海竜族達は海の中へと消えていった
その場で立ち止まる3匹
アドウィンの顔を見てガシエルは口を開く
「で、ほんとによかったのか?」
「何がだ?」
「いや、お前・・・・普段海で生活してただろ?」
「言ったろ、俺は泳ぎが苦手だって、普段は海岸沿いでしか生活してなかったし、俺はこう見えても陸地で生活できるんだぜ?」
「そうなんですか?」
「あぁ、それより町を探そうぜ、いつまでもここにいるわけにもいかねぇよ」
「そうだな・・・・アサナ、ちょっと空飛んで建物とかあったら教えてくれよ」
ガシエルはアサナの肩を叩いた
「もぅ、しょうがないわね・・・・」
アサナは言われた通りに空へと羽ばたいた
この中では唯一空を飛べるのはアサナしかいなかったからだ。
しばらく陸続きになっている方へ視線を凝らすとしばらくしてアサナは降りてくる
「ここから北西の方角に建物らしきものを見つけたわ」
「よしでかした、そこに行こうぜ」
ガシエルは片手を上げた

そしてガシエルの物語はここから始まったのであった
しかし彼らの物語が詳しく語られるのはまた別の機会である。

続く