りぅの風森

第107話

第107話 -邪神竜復活-

ヴェルマ教団に連れ去れたサラを助けるため
冥界にやってきた僕は、その途中でラグゥと出会った
そしていくつかの国を渡り ついにサラの居場所を見つけることができたのだ
その場所こそ、僕達の目の前にある巨大な神殿、冥界の中心に位置する虚無の神殿だった。

「ここにサラが・・・・。」
「ルイ、ほんとにここにサラがいるのか?」
半ば半信半疑のラグゥだが、僕だって少しは疑っている
どうしてこんな場所にサラはわざわざ連れてこられなきゃいけなかったのか
ここでいったい何が行われているというのだ

「いや、考えていても仕方がない、行こうラグゥ」
そう言って神殿に入ろうとした時だった

神殿の奥からローブを身にまとった暗黒司祭がやってくる

「・・・・やはりあなたでしたか、蒼風の守護竜」

「誰だ!?」

「これは失礼、私の名はヴェルトマー、ヴェルマ教団の最高司祭 っとでも言っておきましょうか」
「ヴェルマ教団の最高司祭だと・・・・・サラを返せっ、その奥にいるんだろうっ」
「えぇ、この奥の地下神殿にいますよ、とは言っても もうじき死ぬでしょうがね」
「っきさまぁぁああああっ」

僕は怒りを露わにし
とてつもないマナを体内から放出させる
その様子はまるで勇者に対する魔王のように禍々しい魔力を取り巻いてる
隣にいたラグゥが僕の肩をつかむ

「落ち着けルイ、奴は仮にも最高司祭だそうだ、怒りに身を任せて勝てる相手ではないかもしれないぞ」
「・・・・分かってるよそんなことはっ」

「おぉう怖い怖い、でもここから先へは通しませんよ」
そういうとヴェルトマーは手をかざした

「魔法!?」
創生幻影人!
ヴェルトマーの両脇の地面から黄色い輝きが発し
そこから人影が生えてくる
そしてそれは僕とラグゥの分身を作り出してしまった。

それを見たラグゥは驚く
「なんだこいつ、俺達と同じ姿をしているぞ・・・・」
「ふふん、ヴェルマの創生魔法は闇分身の実を基に構成し目の前にあるモノを複製するのだ、代償として私の余生を半分ぐらい使いこんでしまうがね」
「見た目だけだろっ」

ラグ・ザ・ブレイドッ!!

ラグゥは自分と同じ姿をした分身体に攻撃を仕掛けた
だがそいつは そっくりそのまま真似してみせる

ラグ・ザ・ブレイドっ!!

ふたりの攻撃は互いにぶつかり合い、互いに距離を取る

「こいつ俺と同じ技を使いやがるだと・・・・」
「まさかそんな・・・」

エルウインドッ!!

僕は風の魔法で攻撃してみせた
すると僕の分身も真似をする

エルウインドッ!!

風と風がぶつかり合い旋風を引き起こす
一見、同じ力のようだが僕の魔法が強かったのか旋風は向こう側にわずかに進み途中で消える

「それらは君たちと同じ力を持っているよ、せいぜい互いに殺しあってくれたまえ」
「・・・・寿命を減らしてまで僕たちの複製を作ったっていうのか、いったい何のために!?」
「くくく、もうじき我らの神、ユリス様が誕生するのだ、ユリス様が復活すればもはや私の命などどうでもいいのだ、お前たちの世界は破滅へ導かれるしね」
「つまり時間稼ぎというわけかっ」

僕とラグゥは互いの分身と戦うこととなった
もし本当に僕たちと同じ力を持っているならヴェルトマーも含めたあちら側の有利となる
だが、僕は負ける気がしなかった
実はかつて同じような状況に陥ったことがあるのだ
僕はもう一人の僕と戦った経験があった
あれは確か、チョロに誤って食べさせられた闇分身の実が事の発端だった(第80-82話参照)
あの時は何とか勝てた、だけど、さっきの様子から察するに今の僕なら・・・・
いや、待てよ こうやって考えている間に 向こうは何で全く動いてこないんだ・・・・まさか?

「ラグゥ、話がある」
「なんだルイ、こんな状況だぞ、のんびりと話してる暇はねぇぞ」
「どうやらあの分身体は自我はもってないらしい」
「どういうことだ? 俺たちの技をそっくりのまま返すんだぜ?」
「こうやって何もしなければ向こうも何もしない、それがお前の作った分身の欠点、だろ?」
僕の問いにヴェルトマーは一歩後ろに下がる

「・・・・よく気が付きましたね、でも何もしなければこの先へは進めませんよっ」

「ラグゥ、二人でまずは僕の分身を叩くよ、僕は回復魔法が使えるから分身の僕もきっと使えるはずだからね」
「わかった、その手順で俺の分身も倒すんだな?」
「まぁ、そういうことっ」

僕とラグゥは互いに攻撃態勢に入った
狙うは僕の分身ただ一人・・・・のはずだった

途中で気が変わったよ、向こうの時間稼ぎに付き合ってる暇はないんだ
どうせならまとめて全部消し飛ばしてやる
僕は一刻も早くサラを助けたい一心で最高の持てる技を当てるつもりだ

僕の魂胆を察したのかラグゥは口を開く

「何が一人狙いだ、結局全体攻撃じゃねぇかっ どうなっても知らねぇぞっ」

とラグゥがセリフを言いきる間に僕は先制攻撃を放っていた

スカイファルコンを横に薙ぎ払い光の斬撃を飛ばす
それは魔力を凝縮させた刃、一瞬でその斬撃は彼らを通過する

「すべてを切り裂く大いなる刹那の刃っ!!」

十六夜・月光斬ッ!!

防御させる時間は与えなかった、なぜなら斬撃はもう通過したのだ
空間に亀裂が入ったと思えば
中心にいたヴェルトマーの体が突然上下二つに割れる

「な、なんだこれは私の体がっ ゴフォオオアッ」
引き裂かれた個所から夥しい血をぶちまけた挙句、血を吐くヴェルトマー

それだけでは終わらない。
ヴェルトマーの両端にいた僕たちの分身がヴェルトマーに引き寄せられ
その後、初段に放った光の刃が無数に別れて戻ってくると幾度となく彼らを切り裂く
そして最後に大爆発を引き起こすのだが

そこへラグゥの追撃が加わる

メテオ・ラグ・スレーヴッ!!

一筋の閃光が天より降り注ぐと大爆発を引き起こす
意外と僕達と敵の距離は近いため
僕が魔法障壁を張り爆風からフレンドリファイヤーを防ぐが
ラグゥの放った魔法も威力が高く、神殿を跡形もなくぶち壊してしまったわけだ
とはいえ、僕の放った最初の斬撃で神殿をすでに変形させてしまっていたのは言うまでもないけどね
幸いこの神殿は地下神殿がメインなので下に降りる入り口は無事のようだ
それより僕たちの攻撃を受けたヴェルトマーと僕たちの分身だが
ヴェルトマーは体を半分にされて横たわっているが、あの大爆発を凌いだらしい
僕達の分身は跡形もなく砂となって消えていく

どうやら圧勝のようだ
だが先ほども述べたが体を分けても大爆発を凌いだヴェルトマーは当然まだ生きていた
血を流しながらも口を開く

「まさか・・・これほどの力を持っていたとはな・・・・・」

「なんだ、まだ生きていたのか」とラグゥ

「まだだ、私にはまだ・・・・やることが・・・」

ヴェルトマーは最後の力を振り絞り魔法を唱え下半身をその場に残して消えてしまう

「ルイ、奴が消えたぞっ」
「僕達も急ごう、きっと神殿の中だよっ」

そして僕達は地下神殿へと突入する
神殿の奥では祭壇の上で六芒星を描き呪文を唱え続けるヴェルマの司祭達
祭壇の中心には十字架に吊るされたサラの姿も見える
そこへ先ほど僕達から逃げるように消えたヴェルトマーが現れる

その様子に驚く司祭達
「ヴェ、ヴェルトマー様っ いったい外で何があったのですか!? そのお体はっ」
「いいから早く儀式を終わらせろ、邪魔者がすぐ来る・・・・」
「しかしまだ時間が・・・・」
「こうなっては娘の血はもう不要、私が持つヴォルレッドの血を使い残る魔力もすべてを儀式に捧げ、早急に神を復活させる、いいな!」
「ですがそのお体ではもう・・・・私の体を捧げましょう、どうぞお使いください」
すると司祭の一人が不思議な力を使い精神の入れ替えを施す
それを見た他の司祭たちも手を貸す
「ヴェルトマー様っ!! どうせなら我々の魔力もすべてお使いくださいっ」
残りの司祭たちも奇妙な力でマナをすべてヴェルトマーに捧げその場に倒れていく

「ヴェルトマー様、あとは…任せましたよ・・・・」

精神を入れ替えた司祭はヴェルトマーと入れ替わりそのまま朽ち果てる
新たな体を手に入れたヴェルトマー

「すまないお前たち、すべては神復活のためだ」

そこへ僕たちが駆けつける

「ヴェルトマーッ!!!」

「ふっははははははははははは、もう遅いぞ蒼風の守護竜っ!!! 神は復活する、復活スルノダッ!!」

「どういうことだ、さっきの戦いでヴェルトマーの体は真っ二つになったはずじゃねぇのか」
「いやラグゥ、ヴェルトマーの体はそこに転がってるよ」
「じゃああいつは誰なんだ・・・!?」

「見ろ蒼風の守護竜、これがお前が求めていた娘だぞっ!!」
精神を入れ替えたヴェルトマーの後ろで十字架に吊るされたサラの姿が僕の目にも映った
その瞬間、僕は声を荒げる

「おい、それ以上サラに何かしたら許さないぞ・・・・」
「ふははははは、その距離から何ができるっ、下手に攻撃すればこの娘も巻き込むぞ」
「やめろ・・・」
「だったらそこでおとなしく見てろ、これから神の降臨を見せてやる」

そういうとヴェルトマーは不思議な呪文を唱える

「おいルイ、このまま黙って見てるつもりかよっ」
「そんなわけないだろ、サラは僕が何としてでも助けるっ、その間はあいつの注意を引いてくれ」
「なんとかする、お前も早くいけっ」
「わかってるよっ」
ラグゥに言われて僕はすぐさま行動する
リワープの魔法でサラの目の前に瞬時に移動するとサラの鎖を解きにかかる
「サラ、起きてっ、僕だよサラっ!」
「・・・・うぅん、ルイさ・・・・ん」
朦朧としながらも返事を返すサラだが再び意識を失っていく
「サラ!! しっかりしてよサラっ!!」

ヴェルトマーはそんな様子に目もくれずひたすら呪文を唱えている
それには注意を引こうと攻撃態勢に入っていたラグゥも手を止め首をかしげる
「なんだ、てっきりにルイを阻止するつもりだと思ったんだが何もしないのか!?」

「ふはははははは、もうその娘の血は必要ないのだ、見せてやるぞ 神をっ!!!」

呪文を唱え終えたヴェルトマー
次の瞬間、祭壇に描かれていた六芒星が輝き始める
地面が激しく揺れ、地面から腕のような物が這い出てくる
その間に僕はサラを救出しラグゥのところへ引き返していた
そして地面からは光を放ちながらヴェルトマーの言う神の全身が僕たちの目の前に姿を現した

そいつの名はユリス
かつて人と竜の争いを終わらせるために人間たちが魔族の力を借りて召喚した異世界の神
戦いを終わらせるどころかこの世界を滅亡させようとした邪神竜で
バハムートが率いる聖戦竜達がやっとの思いで倒したっていうとんでもなく恐ろしい奴だ

「・・・・なんだこいつっ」
ラグゥはその姿に身震いした
いや正確にはそいつの持つ魔力に・・・だ
僕もそいつの魔力には驚きを隠せなかった

そんな、こんな魔力見たことがないぞ、
あのバハムートでも持っていたかどうか・・・・

「おお、神よ、ユリス様よっ!! 復活なさったんですねっ」

「・・・・邪魔だ」

そういうと復活した邪神ユリスはヴェルトマーを尻尾で薙ぎ払う
ヴェルトマーは神殿の柱に叩きつけられ地面に崩れ落ちる
「な、何故ですかユリス様・・・・」

「よくもこのような形で私を復活させたな、私の体に不純物の血が流れているだけで不快だ」
「しかし、あなた様の復活にはこうするしかなかったのです・・・・ゴホッゴホッ」
咳込みながら立ち上がるヴェルトマー

「・・・・して、何が望みだ?」
「私の望みは叶いましたので、貴方の望むことすればよいのです、そう、かつてやろうとしたこととか」
「・・・・・・」
「ユリス様?」

「失せろ」

指をヴェルトマーに向けると閃光が放たれ
ヴェルトマーの胴体に風穴をあける
「ガァッ」

一度は僕達に胴体を二つに分けられたヴェルトマー
新たな体を手に入れたばかりだというのに
蘇らせた神によって今度は風穴を開けられるとはなんだか可哀そうな奴だな
だが僕達もその危険があることには違いなかった
当然だが、ユリスは僕たちの存在に気付いている
ヴェルトマーを殺した後、僕たちの方へ視線を変え見つめている
もしここで戦うことになったら
勝てるかどうかはわからない、なぜなら相手は聖戦竜達が束になってようやく勝てたという存在なのだから
そして、先に口を開いたのは向こうだった

「血が騒ぐ・・・どういうわけかこの場に宿敵がいるようだ、そこの青髪、貴様ラハヴァの子孫か?」

「・・・だとしたらどうするんだ?」

「言うまでもない」

するとユリスはヴェルトマーにやったことを僕にもやろうした
指を向けて閃光を放ってきたのだ

その閃光は僕を貫いたように見えたが、それは残像だ

僕は意識を失っているサラを抱えながらも瞬時によけて見せた
「・・・・虫けらが、奴(ラハヴァ)と違って逃げ足だけは速いようだな」
「簡単にやられるわけにはいかないからね」

とはいえサラを抱えたままじゃ戦うことはできない
となるとラグゥが頑張るしかないわけだがそれはいくら何でも酷だ
ラグゥは弱いわけじゃないけど僕には及ばない戦力だし
とはいえサラを救出したことで僕の異常な強さも今となっては発揮できるかは怪しいわけだけど
どちらにせよ相手は聖戦竜が束になってようやく勝てる相手、僕一人で勝てるわけがないよ
「ルイ、このままじゃまずいぞ、何か手を打たないと」
「わかってる、できれば撤退したいところだけど、このまま逃がしてくれそうもないし」

と万策が尽きたように思えた時だった
突然、僕がこの世界に来る前にシリュウから受け取った指輪が輝きだしたのだ

「ルイ、なんだそれはっ」
「わからないよ、指輪が勝手に・・・・っ」

するとあたりの背景が白黒に変わっていく
ユリスの体も同様に灰色になって動かなくなる
「なんだこれ・・・・」

「ルイ、逃げるなら今のうちだよっ」

すると僕達の後ろから声が聞こえた、そう、そこにいたのはシリュウだ
「シリュウっ!? どうしてここにっ」
「詳しい話はあとでっ、僕の力じゃ奴の動きを止めれるのはもって数秒だけだからっ」
「わかった、行こうラグゥっ」
「あぁっ」

シリュウに助けられてその場を後にする僕達
シリュウが用意した逃げ道を使って、本来いるべき世界へと逃げ帰るのであった
サラを救出することには成功したが、ユリスはついに復活してしまった
これからは奴の対策を考えなきゃいけないけど
幸いなことに復活した場所が冥界の世界でよかった、なぜなら本来の世界より時が進むのが遅いからである
だがユリスが僕たちの世界にやってくるのも時間の問題だ
ヴェルマ教団が使っていたゲートがまだ残されているからね

そして場面は切り替わる

ドラグリアにフェリス達を置いて北の大陸にあるハウグリアへと来ていたガリシィルとシュラ、そしてルーシュらは
ハウグリアにあるギルドに足を運ばせていた
帝国とは無縁の北の大陸にいったい何の用なのかというと
ガリィフィスに頼まれていたことを先に終えるためだ
実はサラが行方不明になったことはサラの父ガリィフィスだけに留まらず、兄のフォンにも知らせていなかったのである
(サラの母アトリアラにも知らせていないが、まぁこっちはガリィフィスが話すだろう)
そのことをすっかり忘れていたガリシィルはこうやってフォンがいるであろうハウグリアに来てみたのだが
彼は風となった竜、普段は姿も見せない存在で見つけるのに一苦労していた
仕方なくフォンのことは後回しにして、望みは薄いだろうが帝国の情報が手に入る可能性があるギルドに来てみたというところである
ギルドの受付には かつてルイ達と旅をした仲間、ラクの姿があった
ガリシィル達を見るや否や
「あんたはガリシィルじゃないか、それにシアルフィアの王子までっ・・・」
「お前はラクか、元気そうだな」
「えぇ、おかげさまで今ではギルドのサブマスターまでに成り上りましたよ、ところでどうしたんだ?」
「あぁ、実はフォンを探していたんだが見つらなくてな、仕方なしにユグリスの情報をここに聞きに来たってわけさ」
「フォンは俺だってここ数年見たことねぇぞ、それよりユグリスってあんたらの住む大陸の国だろ、うちじゃろくな情報ないぜ」
「ってことは今中央大陸がユグリスに支配されそうになってるってことは知らねぇのか」
「ぇ、そうなのか?」
「・・・・・あぁ、ルイとサラが行方不明になってからユグリスは不戦の契りを破り、ユグリスより南側をいくつか支配していきやがった、今では大陸の3分の1がユグリスの支配下だ」
「バハムートはどうしたんだ、あいつが黙っているわけないだろ?」
「・・・・・これはあまり言えないことだが、バハムートはもうかつての力を持っていないんだ」
「なっ、そんな不死の力を持つほどのお方がそんなこと・・・・・」
そんな話をしているとギルドの入り口からそよ風が流れてくる

「彼の言ってることは事実ですよラクさん」

風が流れてきたと思ったら
ガリシィル達の目の前に突如姿を現したのは ガリシィルが探していたフォンだった

続く