りぅの風森

第5話

 -解放されし黒き殺し屋-

前回まであらすじ? そうだな
俺とはぅーは村の永住権を無事に手にし・・・いや、永住権の話ははぅーだけの話だったか?
とにかくだ、村の道場の次期跡継ぎ候補にとどまる俺は
あのまま村にいても生活が苦しくなるのは目に見えていた
師匠はまだまだ現役だし、俺があの道場を継ぐまではかなり先になりそうだからな
収入源が村周辺の魔物退治だけじゃ正直やってけない
だったら冒険者になって本格的に稼いでおこうって思った訳だ
で、そのためにはまずは冒険者ギルドに加入しなきゃならねぇんだが
俺達のいた村は辺鄙な田舎だからな、そういった施設はねぇのよ
だから俺は冒険者ギルドがあるジャナワルに向かおうと思ったんだ
ついでだからまだまだポンコツドラゴンはぅーの面倒も見てやろうって誘ったんだよ。
それで今は道中にあるシエルハルと呼ばれる山を登ってる最中だ
そこで俺達は一匹の黒竜と出会った、そいつの名はまだ聞いてないが
この山に眠る魔剣に何者も近づけさせないため、これまでの登山者を散々追い返していた奴だ
俺達はジャナワルに行きたいだけだから魔剣のことはどうでもいいんだ
それを伝えたら山の通してくれたんだが・・・どういうわけか
俺達と一緒に行動を共にしてるんだよな
それが前回までのあらすじだ

え? 語り手がはぅーじゃないだって?
おいおい主人公は何もあいつ一人だけのもんじゃねぇってことを教えておいてやるぜっ
え? それならドランの村で買い物をした話が抜けてるだって?
いや、いいよそんな細かいことは・・・

「さっきから何一人でブツブツ言ってるんダヨ」
「気にするな、前回までのあらすじをお前の代わりにやっただけだ」

シェルは顔を上げて得意げな顔をしながら前進し
はぅーは隣で彼の顔を冷ややかな目で見つめながらついていく
そして彼らの背後には山への立ち入りを厳しく監視していた黒竜が黙って付いてくる

「あのさぁ、こんな事は言いたくないケド、ボクがレイラスさんの所に寄った部分が丸っと抜けてるヨ」
「っんなことはどうでもいいだろ! それより洞窟が見えてきたぜ」

山の中腹辺だろうか、ボク達の前に大きな洞窟が姿を現した
そして背後から付いてきた黒竜が口を開く

「魔剣もこの洞窟の中にある、お前達が本当に魔剣に近づかないか、もう少し見張らせてもらうぞ」
「だから俺達はソレには興味ねぇって」

頭の後ろに両手を添えながらシェルは洞窟の中へ入っていった

「あ、待ってよシェルぅ」

はぅーも後に続いた
その様子に黒竜は『どうだか』と一言だけ呟いた

しばらく洞窟内を歩いていると
辺には様々な骨が散乱しており、魔石もいくつか転がっている事に気づいた

「わぁ、見てよシェル、魔石があちこちに散らばってるヨ」
「見りゃ分かんだろ・・・だが変だな、魔石は今や通貨の代わりだ、こんなに放置されてるなんて」
歩みを止めてシェルは左手を顎に添えた

「欲しいなら魔石は拾ってもいいぞ」
後ろから付いてくる黒竜はそう言った

「ンン? アンタはいらねぇのか?」
「俺は金に困ってないというか・・・そもそも日常で魔石を使うこともないからな」
黒竜は頬を人差し指と中指で交互に掻いた

「町で買い物もしないのかよ、どういう生活してんだ?」
「俺はドラゴンだぞ!?、この山に出てくる魔物は大抵食える」
「あぁ、つまり野生児なんだな」
指をパチンと鳴らすシェル
「ちと語弊があるが、まぁそういう風に考えてもらって構わん」
「ふーん、まぁいいや今はお言葉に甘えて、この辺りの魔石は少し拝借させてもらうぜ」
そういうとシェルは地面に転がる魔石を手当たり次第に拾い上げていった

その総額は1万マギスぐらいにはなっただろうか
1gグラム1マギス、素手で抱え込むとおよそ10kgぐらいの重さになったわけだが
まぁ世の中には便利な保管アイテムがあってな
どういう原理なのかは未だに謎だが、重量や面積を無視して放り込める道具袋があるんだ
これが世の中にはたくさんあるんだからすげぇよな、一体どこの誰が作ったんだろうな

そうして道に落ちてる魔石を拾いながら洞窟内を進んでいくと
やがて広い空間に出てきた、かつてその場所に無造作に置かれていたであろう剣の台座っぽい物が見える
そして、その台座の後ろには大きな竜の骨が形を保ったままそこに寝転んでいた

「そこにある巨大な骨が俺のご先祖様だ、魔剣の所有者だった」

俺達が聞いてもいないのに黒竜はそう言った
そういえばその魔剣とやらは何処にあるんだ?
見渡しても何処にもないように見えるんだが

「・・・で、肝心の魔剣は?」

何処にも見当たらない魔剣にシェルは疑問の問いを投げかけた

「ば、バカなっ!? 朝はまだ台座に突き刺さっていたはずだぞっ」

黒竜は大慌てで台座に駆け寄って辺りを見渡すが、やはりそこに魔剣は無い
一体何処から流れ出たのか、黒竜の鱗からは汗のようなものがダラダラと流れ始める
そんな様子にシェルは冷静に言葉を投げかける

「この場所は俺達が来た道以外で来れる場所なのか?」

しばらく沈黙が続いた後、はぅーが口を開く

「うーん、この流れはあれだネ、僕達がこれから進む道の方から先客がやってきたって感じカナ」
「ま、まずいぞ、このままでは・・・っ」
その場で頭を抱える黒竜
すると突然見知らぬ声が聞こえてくる

「なぁに、アンタ達もこの魔剣が目当てなの?」

今までそこにいなかったはずの気配が僕達がこれから進む予定とは別の、奥の方から突然現れた
そいつは魔剣を逆手に握りしめてボク達に見せつけ、ちょっと決めポーズ気味に仁王立ちしているが
やや暗がりのため完全な容姿はボク達の目には映らない
台座の近くに居た黒竜は台座に両手を叩きつけ、魔剣を握り込むそいつに言葉を投げかけた

「ば、バカ者っ、それをすぐに手放すんだっ!!」
「そんなのお断りよ、これは私が先に見つけたお宝なんだからね!」

黒竜と魔剣を手にした者が睨み合う中
シェルの左目の視界に突然黒いモヤが見え始める

 『な、なんだ!?』

左手で顔を覆うシェル
と同時にはぅーは彼の着る衣類の裾を引っ張った

「まずいよシェル、あの魔剣から禍々しい魔力が溢れ出してるヨ!」

 『まさか、この黒いモヤはあの魔剣からか!?』

「女っ すぐにその剣を手放せッ!」
はぅーの言葉でハッとしたシェルはすぐさま魔剣を手にする何者かに強く叫んだ
だが遅かった、シェルの叫びと同時に魔剣から黒い影のようなものが溢れ出し持ち主へと纏わりついたのだ

「ちょ、何よコレッ!? きゃあぁっ」

「な、なんてことだ!魔剣に封印されてた亡霊が溢れ出たのかっ」
黒竜は台座の影に素早く身を隠す
影に捕らわれた女はしばらくその場でもがいてピクリとも動かなくなってしまう
そして・・・

「フックククク、長かった・・・ついにこの世に戻ってこれたぞ」

魔剣を地面に突き刺し両手を広げる女
声色は元の女性らしさとはほど違い野太い声に変わり
纏わりついた影が彼女の背中から翼を模ったように伸びる
その異常事態にシェルは鞘から剣を引き抜いた
「お前、何者だっ!?」

シェルの問いに女は口を開く

「俺か? 俺の名はアルジェス・・・黒き殺し屋だ」

そう言って暗がりの奥からシェルに向かって突進してきた
それもものすごい速さでだ、姿がはっきりと見えた頃にはもう間合いを詰められていた
シェルはとっさに近くにいたはぅーを突き飛ばす

「なんで!?」

突き飛ばされたボクは一瞬理解できなかった
地面を2,3回ほど転がり、再びシェルの姿が見えた時には
シェルと背中から翼のようなものを生やした雌狐の獣人が鍔迫り合いをしていた
それでようやく理解した、ボクを守るためにシェルは突き飛ばしたのだと

「ほぅ・・・俺の攻撃を受け止めるか」
「意外と非力なんだなぁ黒き殺し屋さんよぉっ」

二匹が互いに動かない様子からほぼ互角の強さだと思われる
ボクも何か援護したい所だけど、残念なことに今のボクはまだポンコツだ

「黒竜のおじさん、シェルを助けてッ!」
台座の物陰に身を潜める黒竜にボクは助けを求めた
だが黒竜は首を横に振るう
「冗談じゃない、魔剣に封印されていたような悪霊だぞ!? 俺ごときが敵う相手じゃないっ」
黒竜のおじさんは想像よりも頼りなかった
それでもボクは彼に助けを求めた
「おじさんよく見てヨ! 見た感じ敵はシェルと同格・・・ボクはともかくおじさんなら大丈夫ダヨ!」
「そういう問題ではない、あの魔剣は我々竜族に対して絶大な威力を発揮するんだ」
「で、でもっ 大の大人の竜が身を潜めるほどなのっ!?」
「むぅ、確かに獣の坊主が頑張っているのにあの程度の獣ごときに怖気づくのは俺のプライドが傷つく、いいだろう」
ボクの必死な説得で黒竜のおじさんはついに重い腰を上げる

「獣の坊主っ、私が今加勢するゾッ!」

鍔迫り合いから動かない二匹の元に駆け込む黒竜
よかった、これで形勢は逆転するはず・・・だよネ?
ボクに若干の不安がよぎる

一方、黒竜が動き出したのを見て鍔迫り合いをしていたシェルと
アルジェスと名乗る雌狐は互いに離れ、場を仕切り直す
加勢に来た黒竜の姿を見てアルジェスは口を開いた

「ほぅ・・・誰かと思えば、貴様・・・ラジェスの末裔か」
「誰だそいつは!?」
冷や汗を流しながら問う黒竜に応えるかのように
雌狐は魔剣を肩へ担ぎ、空いた片手である方向に指を刺した
その指先には巨大な竜の骨がある、ついでに台座の近くに身を潜めているはぅーの姿もチラッと見えていた
『あいつ、アレで隠れているつもりかよ』
別の意味で冷や汗を流すシェルの隣で黒竜は骨を見て驚く

「何・・・だとっ!? 俺のご先祖様!?」
「おいおい、そいつが骨になったのってずいぶん昔なんじゃねぇのかよっ、なんでそいつの名を知ってるっ」

驚き戸惑う黒竜を他所にシェルが問うとアルジェスは素直に答える

「俺はあいつに封印されていたからな、名前を知ってるのは当然だ」
「なるほど?」
「そして追加の詳細を教えてやろう、俺はそいつの兄なのだっ ふっははははっ」
アルジェスは高笑いした

「肉親に封印されるなんて、生前何をしたんだ?」とシェル
「・・・そこまで答える気はないな」
アルジェスは笑うのをやめ再び魔剣をシェル達に向けた
その瞬間、シェルの視界に再び黒いモヤが溢れ出る

 『あの感じはまさか、別の悪霊が溢れ出ようっていうのか?』

「おっさん、ここはあまり時間をかけてる場合じゃなさそうだ」
「分かっている、だがあの魔剣は竜族対して絶大な威力を発揮する、私があの剣をまともに喰らえばヤバい」
「ンン? つまりどういう事だ?」
「私は後衛に回る、前衛を引き受けてくれ」
シェルの背後に3M以上離れる黒竜
「なっ!? 俺を盾にする気かよっ!?」
「結果的にはそうなるな、だが安心しろ魔法で援護してやる」
そういうと黒竜は地面に両手を叩きつけた
その瞬間アルジェスの周囲にあった岩肌が鋭い槍の形状となって一斉に襲いかかったのだ

「ルーペースハスタ!」

黒竜の放った魔法だ、地属性の魔法のようだが
はぅーがレイラスから貰った魔法書には残念ながら載ってはいない
つまるところ初級魔法ではないのだろう
初見では避けることは至難だ、なにせその槍は包囲するように襲いかかる
だがアルジェスはそれをいとも容易く避けてみせた
「その程度の魔法が俺に通用するか」
襲いかかる槍には残念なことに弱点が存在した
そうだ、襲いかかる先端にさえ気をつければいいのだ
襲いかかる槍にアルジェスは次々に飛び乗り回避した

「な、アレを難なく躱すとは!?」驚く黒竜

アルジェスは魔法の襲撃をやり過ごすとそのままシェルに斬りかかった
凄まじい速度の剣撃、一太刀には終わらず連続で斬りつける
それにシェルはよく耐えている、流石は時期剣術道場の師範代候補だ
すべての攻撃をいなしている

「おっさん、このままじゃ押し切られちまうよ!」
「くっ、しかしお前を巻き込みかねん!」

魔法で援護すると名言した黒竜だが
敵とシェルの距離が近すぎて的を絞れず、完全に動きが止まってしまっている
ボクはその様子に慌てふためく
 
 『どうしよう、このままじゃシェルが危ないヨ』

ボクは台座の後ろで何か出来ないかを考えた
魔法はダメだ、まだ何も覚えてはいない
かといって敵に飛び込んでいく勇気もなかった
ボクはまだスライムにも辛勝するレベルの実力しかないのだ
でも彼らの戦いを黙ってみているのは何処か心苦しい
ボクが辺りを見渡すと地面に魔石が転がっているのが見えた
それと同時にレイラスさんの言葉を思い出す

「・・・そうだ、魔石」

ボクは所持している特別な魔石、炎の魔石を素早く手に取った
コレを食べれば魔法をすぐに使えるようになるってレイラスさんが言ってた
正直半信半疑だ、それにこんなものは食べたくない
ケド・・・
ボクはその魔石を両手で口の中に放り込んだ
ガリッ っと音を立てながら涙目で噛み砕く
口の中に広がる苦みと不快感はまるで砂抜きを忘れた貝類を食べている気分だ
それと同時にボクの身体の中から熱気が駆け巡った
今までにない感覚にボクは驚きと同時に理解した
そしてボクは台座の陰から身を乗り出しボクに背を向ける敵に向かって両手をかざす

-ファイヤーボール-

と本来は言うべきなのだろうけど、ボクは今、感覚でソレを放ったのだ

「まさか本当に!?」
思わず声を漏らす

敵との距離は数十メートルほどしか離れてなかった
ボクの手から放たれた火球は瞬く間に敵の背後を捉える
本来であれば当たるはずのない攻撃だが
不意打ちだからこそ避けられることもなく命中した
ドゴォ!という直撃音が鳴り響く所だが実際に聞こえたのは悲鳴だった

「ぐあぁっ!?」

攻撃を続けていたアルジェスの手が止まったのをシェルは見逃さない
魔剣を弾き飛ばし瞬時に剣を鞘に収めて敵の腹部に目掛けて突進した

「エペストレート!!」

本来であればこの攻撃は刀身を晒して行うものだ
シェルは今回わざわざ鞘に収めて殺傷能力を抑えた
それでもすごい勢いで敵は吹っ飛びボクのところまで転がった

「カハッ」

魔剣は敵の手から離れ宙を舞ってシェルの眼の前に、そして地面に突き刺さる
それと同時に雌狐の身体に纏わりついていた黒い影が離れた
悪霊の憑依が解けたのだ

「やったか!」
「バカやろうおっさんっ、そんなセリフは今言うんじゃねぇっ!!」
シェルの後ろでガッツポーズを決める黒竜にシェルは注意した
あぁ、よくある展開だ
大抵この「やったか」のセリフを言ってしまうと敵は倒しきれていないのだ
その証拠に地面に突き刺さった魔剣に亀裂が入る
ピシッという音と共にだ
それに気づいた黒竜は驚く

「ま、まさか魔剣が壊れた!?」
「だとしたらずいぶんと脆弱な剣だな、別に武器破壊を狙った訳じゃないんだが」
シェルは魔剣に手を伸ばした

「よせ、さわるなッ!」

黒竜はシェルの肩を掴んで触ろうとするのを阻止する
その時に魔剣は粉々に砕け散った
その瞬間、魔剣の中からどす黒い影がいくつも飛び出し多くは消えた
飛び出した影の一部が僕達から少し離れた場所で一匹の竜を形作る
そして再び先ほどの声が聞こえてくる

「フッハハハハ、間抜け共がッ! まさか魔剣を破壊してくれるとはなっ!」

ボク達の前に突如現れたそいつは先程とは全く違うオーラを放っていた
やつの身体からあふれる魔力も桁違いだ
見た目は黒竜のおじさんに似た姿をしている
新たに現れた黒竜の姿を見て黒竜のおじさんは腰を抜かしてその場に崩れ落ちた
仕方ない、眼の前にいるのはとんでもない化け物だ、ボクも見たこともない魔力量に足を竦ませた
そんな中、魔力に鈍感なシェルだけが平然と立っている

「それが本来の姿というわけか」
「あぁ、あの女の体では本来の10%にも満たない力しか出せなかったが」

黒竜の身体から魔力の渦が溢れ出し、地面に転がる魔石がカタカタと揺れ宙に浮いた
その様子を見てボクもまた地面に腰を落としていた
今のボク達じゃ絶対に勝てないと悟ったからだ

「これでヤツを殺しに行ける、感謝するぞ」

そういうと新たに出現した黒竜ことアルジェスは僕達を放って外に出ようとした
それを見て鞘から再び剣を抜こうとしながら呼び止めるシェル

「待て、何処へ行く気だっ!」
「貴様らには関係のないことだ、だが復活させてくれた礼に教えてやろう」

シェルの呼びかけに足を止めたアルジェス
今なら背後から突き刺せそうだが、シェルは実行しなかった

「貴様はバハムートと呼ばれる竜を知っているか?」
「いや、誰だ?」
「その魔剣に封印されることになった元凶だ、俺は奴に復讐する」
「・・・復讐」
「そうだ、あの糞女を殺すためだけにこの日を待ち望んでいた、数億という途方もない年月を」
「待て、そんなに時が過ぎていたら、そのバハムートって奴はとっくに死んでるんじゃねぇのか?」
「知らんのか、あの女は不死の女王と呼ばれている、今も生きているはずだ」
アルジェスに言われてシェルは腕を組んだ
どう思い返してもバハムートの名を聞いたのは今回が初めてであった
眉間にシワを寄せる
「・・・悪いが、初耳だな」
「フン、話にならんな俺はもう行くぞ」
アルジェスは再びその場を後に去ろうとした
雌狐に取り憑いて僕達を殺そうとしていたのはなんだったのか
黒竜のおじさんが腰を抜かしたまま呼び止める

「待てアルジェスっ魔剣に封印されていた他の霊達は何処に行った!」
「俺に怯える雑魚どもの行き場所なぞ知るか、だが魔剣の封印は解かれた世界は再びパニックで溢れるだろうさフハハハハ」
そう言ってボク達を置き去りに、笑いながらアルジェスは消えていった
その場に取り残されたボク達はどうにか殺されずに済んだのだ
もし再び戦闘になっていたら一方的に殺されていたに違いない
シェルは洞窟の土壁に拳を叩きつけた

「くそっ俺はまだ弱い」

壁にはくっきりとシェルの拳の跡が残った
シェルは魔力に鈍感ではあったがアルジェスとの実力差を察していた
一度呼び止めた時に攻撃を仕掛けようと考えていたが
攻撃が通用しないビジョンが見え、実行に移せなかったのだ

「とりあえず、助かっただけでも喜ぶべきだな、まともに戦えば俺達は死んでいたぞ」

黒竜のおじさんはゆっくりと立ち上がり土埃を払い除けた
ボクも同意する
「お、おじさんの言う通りダヨ」
「はぅー・・・そうだな、これからどうする?」
「俺はもうこの地にとどまる理由がなくなったよ、故郷に帰るさ」
僕達に背を向ける黒竜のおじさん

「待て、封印から開放された悪霊達はどうする気だ、アルジェスとかいう化け物も放って置くのか」
「悪いが俺の手には負えない事態となった、後のことはギルドの冒険者達に任せることにする」
「それでどうにかなるもんなのか?」
「案外どうにかなるもんだよ、昔とは違うからな」
そういうと黒竜のおじさんもその場から去ってしまった
結局最後まで彼の名前を知ることはなかった

そんなことより、何か忘れているような・・・

僕達の背後で白目をむき出しながらゆっくりと立ち上がる雌狐

続く