りぅの風森

第117話

第117話 砂漠を越えて

俺の名はルクス、神子族の国アルカティスの王子だ。
父上に狂暴化した魔物討伐を頼まれたついでに俺はドラグリアへ目指すこととなった
目的地のドラグリアは徒歩で目指すにはそれなりに遠い
ともかく今はアルカティスの隣国シェレに向かって 砂漠の道なき道を一人で歩んでいるところだ

アルカティスの主要拠点であるオアシスから1時間は歩いただろうか

魔物が狂暴化していると聞いていたから
魔物がうようよ沸いてで来るのかと思えばそういうわけではなさそうだ・・・・
だが、そう思った時にいきなり出てくるのが まぁ、世の常だよなぁ

ルクスは足を止めて携帯してる2刀の剣を鞘から抜いた
父上からもらったエンジェルフィングとデビルフィングだ
左手にはデビルフィング、右手にエンジェルフィングを握りしめている

それと同時に地面の砂から甲殻類に似た巨大な蟹みたいな魔物が現れる
1匹だけではなく、次々に地面から姿を現し 気づけば俺を取り囲んでいる
その数は6杯・・・・いや匹か?

ま、そんなことはどうでもいい

こいつらが商人たちを困らせている魔物達なのだろうか? いや、俺が思うに多分違うな
この魔物はスコルピノクラブ、図体こそはデカいが 砂漠の民にとっては序盤に出てくるような魔物の一種だ
また、魔物とはいえ 硬い殻の中にある肉は、甲殻類のそれと似たが味がするんだ
王宮でもたまに食卓に出てくるほどさ、っと話がそれたな

こいつらは普段 繁殖期以外で群れを成して行動することはないんだ
それに砂の中に身を潜めたりはしない・・・・・今回はたまたま前者の可能性はあるだろうが、後者のことがある
ということは、突如狂暴化した魔物の出現によって地面に隠れていたのだろう、と推測する
つまるところ、こいつらが本能で隠れるほどの魔物がいたってことだな

とはいえ、こいつらも魔物には違いない
こいつらに囲まれて先に進めないのも事実
悪いがさっさと片付けさせてもらうぞ

左手の剣で防御の構えをしつつ
俺は右手を真上に掲げた

エンチャント・雷

突如、右手の剣に雷撃が纏わり始める
あいにく俺は相手に直接放つ魔法はそこまで得意じゃない
これが俺の魔法なのだ、武器に属性を付与する魔法 と言った方がわかるか?

そのまま俺は右手を振り回し
魔物達に攻撃を仕掛けた、魔物を引き裂く度にバチバチと音を立てる
そのままスコルピノクラブの群れを難なく片付けた

ま、今の俺にかかれば雑魚すぎて話にならない敵だ
ついでに食糧も手に入った、今夜は野宿になっても問題なさそうだ

すると何処からか 拍手の音が聞こえてくる
その音の主はすぐ近くの岩場の上にいた

見たところ女のようだ、卓球のラケットのようなものを手にしており
砂漠だというのに白いアオザイを着こなしている
日に焼けたのか露出している部分は大体茶色になっていた
その様子から砂漠の民でもなく、魔法で身を守る術も持っていなさそうだ
なんてふざけた女だ、こんな砂漠で・・・・死にたいのか?
かくいう俺も見た目は砂漠に相応しくない格好をしているのだが・・・・・。
何せ革のジャケットに革のズボン、まるで見た目はカウボーイみたいな まぁ、そこは気にするな
これでも肌の露出は少なくちゃんと日差しから守られている

「お前、そんなところで何をしているんだ?」

無視すればいいものを俺は声をかけてしまった
まぁ、拍手されたということは 俺の戦いを一部始終見ていたのだろうからな
女は俺の言葉が分からないのか首を傾げた後、降りてくる
そして俺に電子辞書みたいなものを突き付けてきた

それは俺が初めて見る代物だ、とても近代的でこの魔法が浸透している世界にそんなものがあるのかどうかも疑わしい
とはいえ、俺は砂漠の民だからな・・・・・

「・・・・なんだこれは、どうやって使うんだ?」

俺が使い方に困っていると女は
その辞書についてあるボタンを押した
しばらくすると謎の音声がその辞書から流れてくる
俺の頭上に ?マークが今にも飛び出してきそうだ
だが、女は再びその辞書のボタンを押して
俺の知らない言葉を発した

しばらくして辞書から なじみのある言葉が流れてくる

「私の名前はスニョンです、聖地を探して旅をしていました。」

なるほどな、女が突き付けてきたのはどうやら翻訳機のようだ
少し無駄な時間を取られるが、会話ができるのはありがたい

ん? 待てよ、この世界は大体 共通語のはずなんだが・・・・
まぁいいか、古代語なんていう物もなくはないからな
この女も俺の知らない土地から来たのだろう、旅をしてここまで来たらしいしな

「それで、俺に何か用か?」
「私はこの砂漠に迷ってしまいました。できれば町まで送ってほしいです。」
俺の問いにしばらくしてから翻訳機からの返答がくる

ここから近い町は間違いなくアルカティスだ
だが、この女・・・・見た目からしてアルカティスとは無縁のように見える
ここは砂漠の外にある町に連れて行った方がこの女の為になるだろう
それに俺は先ほどアルカティスを出たばかりなんだ、すぐに帰る訳にもいかない
しかし、シェレまでこいつと共に行動するのは正直困るぞ
なぜなら狂暴化した魔物がいるからだ、俺一人なら何とかなると思っていたが
他人を守りながらとなると話は別だ

だが、連れていくしかない・・・・こんなところに置き去りにすれば 間違いなく死ぬだろう
見殺しにするのは俺の性に合わない

「わかった、シェレまでは送ろう、だが気をつけろよ、この辺には狂暴化した魔物がいるかもしれねぇんだ」
「私は分かっています」

くそ、さすが翻訳語だ、ちょっと違和感のある返答がしばらく慣れそうもねぇ
砂漠故に時間をかけてゆっくりシェレまで行く予定だったが、今日中にはさっさと町に送り届けるとしよう

俺はスニョンという女を連れて
シェレを目指した

それから3時間は過ぎただろうか、やや急ぎ足で進んでいるとはいえ
シェレまでの道のりはもう少しかかりそうだ
何せ砂漠だからな、思ったより足取りは早くはない
だが、このペースで進めば夜までにはシェレにたどり着けそうだ。

それはそうと今までの道中に魔物と何度か出くわしたのだが、このスニョンという女
まったく戦えないというわけでもないらしい
手に持っているラケットが巨大化したと思えば
それを振り回して魔物を叩き潰したりする。
俺はそれを見て少し引いたほどだ。
この女が戦えるなら相手をせずに置いて来ればよかったと俺は後悔した

そんな中、俺達は狂暴化したと思われる魔物とついに出会う

デザートウルフだろうか
本来であれば人を襲わず、この砂漠に沸く小型の魔物を淘汰してくれる有益な狼的な存在だ
今まさにシェレからアルカティスに向かっていた商人を襲っている最中のようだ

「ったく、無駄な時間を取らせやがるぜ」

俺はすっかり本来の目的を忘れていた
砂漠の狂暴化した魔物を討伐するのが大前提だったのだが
いつの間にかこのスニョンという女を シェレまで送り届けることが最優先に切り替わっていた

俺は剣を両手にデザートウルフに目掛けて走り出した
デザートウルフは牙をむき出しにしながら商人を地面に押さえつけつつ、こちらを睨んでくる
注意がこっちに向いたのはよかった
まだあの商人は助け出せそうだ

「っしゃおらぁ」

俺は剣を振るいデザートウルフに切りかかりながら商人から遠さげる
今ので死んでくれるとありがたいのだが、ま、そんな簡単に行くはずもないか

「大丈夫かおっさん」

「どなたか知りませんがありがとうございますっ」

助け出された商人は俺に礼を言うが
俺はまだデザートウルフを倒したわけじゃない
俺の前には唸り声を漏らしながら、こちらに牙を向けるデザートウルフがいる
それを見た商人は悲鳴を上げる
「ひぃっ」

「スニョン、おっさんを任せるぞ」

俺は商人をスニョンに任せて
一人でデザートウルフに挑む

クロススラッシュ

十字に引き裂く斬撃を放つ
これが決まればこの魔物は倒せるだろう

だが、その魔物は俺の斬撃を避けてみせた

馬鹿な、俺の攻撃を避けただと!?

それだけじゃない、デザートウルフの牙からは火炎のようなものが溢れ出していた
次の瞬間、デザートウルフから信じらないものが放たれたる

火炎弾というべきか

それがデザートウルフの身の周りから出現し
俺に襲い掛かってきたのだ

俺はいきなりの出来事に驚きつつも
それを切り裂く
火炎の一部が後ろのスニョン達にもかかりそうになった

その様子に「オォウッー、クッソターレ」と驚きじみた声と下品に聞こえる声を上げるスニョン
まさか、くそったれは共通語、なのか・・・・?

ったくあの魔物が火炎魔法が使えるとは俺も初見だぞ
それに俺が与えた最初の攻撃も効いてる気がしねぇ
商人を助けた際に与えたダメージが
あのデザートウルフには見受けられない

これが狂暴化した魔物の強さか・・・・。
だが、暗黒神ユリスよりは弱いはずだな

俺は次の攻撃を仕掛けようと機を窺いつつ身構える
火炎を放ってきたんだ、俺の勘が正しければ 水か氷には弱いはずだ

エンチャント・氷

俺は剣に冷気を纏わせた
万が一これが奴に効かなくても、一応、あてようによっては動きを止めることはできるはず・・・
そんなことを考えている最中に向こうから攻撃を仕掛けてきた
今度は魔法じゃなく飛び掛かってくる

俺は剣で振り払いながら攻撃を仕掛ける

ストラッシュドライヴ

基本連続斬りからの突進突きを放つ
その攻撃は最終的に見事にデザートウルフの腹部を貫き吹っ飛ばす
デザートウルフは2mほど砂漠の地面に引きずった跡を残して そのまま倒れた

どうやら倒せたらしい

「ふぅ、なんとかなったぜ」
「私はあなたが心配です、大丈夫ですか?」とスニョン
翻訳機越しにそう聞こえてくる
「俺は大丈夫だ、それよりおっさんの方は大丈夫か?」
「私のことなら心配いりませんよ、それより最近あの魔物が私たち商人を襲っていたので本当に助かりました」
「狂暴化した魔物はあれだけか?」
「この辺ではそうみたいですが、どうやら各地であのようなケースが起きているそうですよ」
「各地で・・・だと?」
「はい、詳しくはわかりませんが、ところであなたたちは何処から来られたのですか?」
「俺達はアルカティスから来たんだ、これからおっさんが向かうなら安心してくれ、道中の魔物はすべて片づけてある」
「おお、それはありがたい、魔物のせいでアルカティスへの商品がここんところまともに運べなかったんだ」
商人は辺りにちらばる荷物を砂漠用のソリに積み直しながら口を開いた
俺も手伝いたいところだが、スニョンを町までさっさと送り届けたいのだ 構っている暇はない

「行くぞスニョン、町はもう少しだ」

俺は再びスニョンと共にシェレを目指した
一応、目的の狂暴化した魔物を倒したが
あれ一匹で解決するとは思えない・・・・・・なぜなら、あのデザートウルフは普段群れをなす種なのだ

結局、あれから数時間ほど砂漠を歩いたが
俺たちがシェレにたどり着くまで1匹もデザートウルフに出会うことはなかった

おかしいな、俺の勘ならもう2,3匹は出てきてもおかしくはなかったはずだが・・・・・。

とにかくなんだかんだでシェレに着いたんだ、気にすることもないか
時刻は分からないが、夕方を過ぎる頃だろうか、空は少し暗みがかってきている

「とにかく、町についたぞスニョン」
俺は町がある方へ指をさして言った
「私は感激しています、とてもとても嬉しいです。ありがとうございます。」
翻訳機越しにそう返答し、俺の両手を握ったスニョン
「もう砂漠の方には入るなよ、あそこは迷いやすい」
「分かりました。私理解しました。あなたの名前を教えてください」
「そうか、そういえばまだ俺の名を名乗ってなかったな、俺はルクスだ」
「ルク・・ス、ありがとうございますルクスさん、これで私は失礼します。」
翻訳機越しに話したスニョンはそのまま町の中へと消えていった
俺はしばらくその場にとどまる

やっと行ったか、本来は2日かけてここに来る予定だったが
シェレまでは意外と早く来れるもんだな・・・・。

俺は来た道を振り返りながらアルカティスの砂漠を眺めた
そう、このシェレは意外にもまだ砂漠化の影響が少ないのだ
アルカティス方面にある町の入り口からは砂漠になっているが
それ以外はまだ草木が生い茂っている
というか、このシェレという国は5つの町があり
中央にそびえたつシェレ城付近からシェレ それぞれ北シェレ、西シェレといった具合に東西南北の町がある
今俺がいるここは正確にはアルカティス砂漠に面した東シェレという町だ。
それぞれの町にはシェレ王の子孫達が個別に管理しているのだが、まぁ、今は関係ないな

「さて、このまま移動するには今日はもう遅いな、今夜は宿屋に泊まるか」

俺は東シェレの宿屋を目指した

やがて俺の前に宿屋が見えてくる
この町の宿屋は一般的な2階建て木造建築、宿部屋数は12部屋と少な目・・・なのか?
まぁ、この町は観光地でもないからな、そう満室になることはないが
1階は酒場も兼業していることもあって
俺が宿の手続き済ませた時はほぼ貸し切り状態だったが
ひとたび日が完全に沈むと、酒場の方は少し盛り上がっていた
俺はまだ大人というわけではないため、酒場で酒を飲むわけにはいかないが・・・・
酒場に来る村人からはいろんな情報が聞けることもある
少し話を盗み聞くため俺は眠りにつく前に1階へ降りて1杯の水を店主に求めつつ 聞く耳を立てた

「おい、聞いたか、シェルテアの王が死んだらしいぜ」
「おいおいまじか、で、後継ぎは? もちろんトレアス様なんだろ?」
「それがよ、有力候補のトレアス様を阻害しようと 叔父のバルダミアがすでに動いているらしいぜ」
「まじか、場合によっては砂漠を超えた向こうの国とはいえ、この国にも影響ありそうだな」
「なんでもバルダミアはバジルギア同盟を使ってトレアス様を完膚なきまで潰したいらしい」
「あのお方は敵となる方に容赦のないお方、大方シェルテア王の死も関わってそうだな」
「トレアス様がバルダミアの動きを読んでいるとしたらどうでる?」
「バルダミアが先手でバジルギア同盟に手をまわしているとすれば、今のトレアス様が頼れるのは同盟国であるこの国だけだろう、そうなるとやはり近々戦争が起きるかもしれねぇ」
「シェルテアとはアルカティスを挟んだ向こう側だぞ、最初に向かわせされるのはこの町の兵士たちだ、やめてほしいぜ」

シェルテアの王が死んだ・・・・のか
シェルテアは確か、アルカティスの南東にある国だ
あそことは同盟こそ組んではいなかったが、それもバルダミアによる猛反対によるものだった
父上がこのことを知れば、トレアスの味方をするだろうが・・・・知らせるべきか?
いや、砂漠を超えたこんな町にまで情報が洩れているんだ、アルカティスにもすでに情報は漏れている・・・か
俺はとにかくドラグリアへ目指そう 明日は朝から出かけるため もう寝ておくかな

俺は残っている水を一気に飲み干し
二階の宿部屋へと向かった

そして夜が明けた

朝早く、日が出始める頃に俺は宿を出た
今から目指すのは 当初の予定通り ドラグリアだ
とはいえ、その道のりはまだまだかかる

今日の予定では シェレの隣国であるパルテノンの領に入り
その主要都市の一つ、アルテイアにはたどり着いておきたいところだ
マンスフィ領に入るまでは しばらくは平地続きだから まぁ、苦労はしないはずだが・・・・・。

そんなことを考えながら俺はシェレ領内を通っていく
そういえばシェレの町に入る前から思っていたが
国境警備隊なるものがいるとばかり思っていたが案外いないもんなんだな
ま、止められれば アルカティスの親善大使として動いているとでもいえば何とかなるだろ
いや、それよりも商人のフリをした方がいいのか?

いいや、めんどくせぇからなるべく人目のつかない場所から国境を越えていくとしよう

俺はシェレ領内を歩き続けた、
西シェレまではほとんど町中を歩いたが、やがて西シェレの町外へ出る
もちろん、しばらくはシェレ領内だが、パルテノン領に入るのも時間の問題だろう
だが、俺の前には森が生い茂っている
あぁ、なんだか嫌な予感がするぜ・・・・。

続く