りぅの風森

第27話

第27話 -生きるために-

雷竜族の国『サーンリデア』が滅んでから6年が過ぎたドラグリア暦7638年
バハムートがドラグレッサ王国をたち上げてから4年が経った頃である
ここはヴェルファシスの村
とはいえ、今となってはオードしか住んでいない忘れ去られた村
オードの住む家の庭で1匹の竜が剣を抜いた
オードのもとで十分すぎるほどの剣の修行をつんだミゲルだ。
そしてミゲルの前には1本の竹が長々と伸びており
ミゲルの後ろではオードが腕を後ろに組んで、ミゲルを見ている

「師匠、見ててください」

次の瞬間
竹が6つに分かれた
その出来事はあまりにも一瞬だった
ミゲルは秒速に6回もの斬撃を行ったのだ
その様子に握手を送るオード
「わしは秒速に4連撃しか放てん、ついにわしを越えたなミゲル」
「ありがとうございます、これも師匠のおかげです」
「わしが教えられるのはここまでじゃ、だが、わしの知るかぎりではお前はまだまだじゃ、あの三剣神には遠く及ばぬ・・・・・・」
「三剣神・・・ですか?」
「この世界には聖戦竜と聖戦器が誕生する前に4つの神剣と三剣神の伝説があるのじゃよ」
「そうなんですか?」
「その内の一人、ファシル・ヴァーンは秒速に12連撃という最速の剣技を持っておった」
「秒速に12連撃も!?」
「そして、もう一人ツァルガ・アルスレイ、こいつは一太刀で大きな鉱山をも切る怪力、破壊の剣技じゃった」
「一太刀で鉱山を!?」
「最後の一人は双剣の達人ルクセア・セイファート、こいつは剣技にあらゆる属性を乗せた 魔法の剣技じゃった」
「ん? 最後のは俺にも出来そうですね」
「いや、白と黒の軌跡を残す彼の剣技は他者には再現不可能じゃ」
「そうなんですか?」
「お主はどちらかと言うとファシルタイプの剣技じゃ、ヤツには遠く及ばなくてもこの時代では十分通用する」
「それを聞いて安心しました、師匠を越えても俺にも勝てない相手がたくさんいるのでは剣を習った意味が無い」
「世界は広い、おそらく剣においてお前を越えるものはそういないと信じたいが、油断はするなよ」
「はい、今までお世話になりました、俺は家に帰ります」
「うむ、世間では例の黒竜たちが暴れまわっているらしい、ハンターの件もあるし気をつけて帰るんじゃぞ」
「オードさんもお気をつけて、ドラゴンズスピークに来ることがあればまた会いましょう」
ミゲルはそうしてオードのもとでの修行を終えた
これから彼はドラゴンズスピークへと帰宅する

その頃、ミゲルの帰りを待つガリシィルとリュリカは自宅のテーブルを挟んで互いに向き合っていた
ガリシィルは机に肘を乗せ頬杖をつきながら窓際を眺めている
「ミゲルのやつ、そろそろ修行を終えて帰ってくるんだな」
「えぇそうよ」
「・・・・・・結局、間に合わなかったか」
ガリシィルは胸を押さえた
「ごめんなさい、私の治療が役に立たなくて」
「いやいい、お前のお陰で発作が軽くて助かっている、ただ・・・・・」
「?」
「ミゲルに戦い方を何一つ教えてやれなかった」
「・・・・・何のためにオードさんのところに行かせたと思ってるのよ、大丈夫よ」
「そうだな・・・・リュリカ、突然だが悪い」
ガリシィルは立ち上がると扉の前に歩いた
「どうしたのよいきなり」
「俺はこれから家を出る」
「は? 何言ってるのよっ! もうすぐミゲルが帰ってくるのよ!?」

そこへ丁度ミゲルが帰宅する

「ただいま帰りました、父上っ母上っ!・・・・あれ、どうしたのですか父上?」
「・・・・・すまないミゲル、俺はお前に何も教えてられなかったな」
「何を言ってるんですか、魔法は人通り教わりましたし十分ですよっ それよりどこかへお出かけですか?」
「俺はしばらくこの家を出て行くつもりだ、俺の代わりにリュリカの側にいてやってくれないか?」
「ぇえっ!? いきなりどうしたというのですかっ」
「それが俺にはも分からないんだ、ただ、俺はここに居てはいけないような・・・・そんな気がするんだ」
「ちょっと待ちなさいよあんた、そんな身体でどこへ行こうと言うのっ」
「母上?」
「ミゲル、ガリシィルはね、病に冒されているのよっ、それなのに出て行くなんて言うのよっ」
「病って・・・・オードの言っていた通りだったんですね」
「俺はこれから兄さんに会いに行ってくるつもりだ」
「シリュウのところへ? 一体何しに行くのよ?」
「兄さんは未来が見えると言っていた、俺は今後どうするべきなのか・・・助言を貰いに行く」
「でも居場所は分かるの?」
「確かオレフレンにいるはずだ、かつて俺がそこの国王を殺したが・・・・噂でそこにいると聞いた」
「俺も行きましょうか?」
「いやいい、お前はリュリカとここに残れ」
「しかし、病気な父上を一人で行かせるわけには・・・・・」
「そうよガリシィル、行くなら私達も行くわよ」
「黒竜の件もある、お前達はこのドラゴンズスピークを守ってほしいんだ」
「何を馬鹿な事を・・・・それこそ、貴方を一人で行かせるわけには行かないじゃないっ」
「俺にはこれがある、身体は病に冒されていようが多少は平気だ・・・・じゃあな」
そういうとガリシィルは聖戦器であるドラグレアイーグルを見せると
その場から消えてしまう
「リワープの魔法!?・・・・ったくしょうがないわね、いつもいうことを聞かないんだから」
「母上っ、いいんですか!?」
「・・・・・私はリワープは使えないからね、後は追えないわ、でも大丈夫かしら」
心配するリュリカ

リワープの魔法で瞬時にオルフレン王国へとやってきたガリシィル
その場に現れるやすぐに血を吐く
「ぐっ・・・・やはり身体がもたないかっ」
その様子を見て通行人が声をかけた
「大丈夫かいあんたっ」
「っ・・・それよりシリュウというやつを知らないか、俺に似た銀髪の竜だ」
「銀髪の・・・あぁ、それならあの城にいると思います」
通行人は城の方に指をさした
「そうか、すまない」
その城には見覚えがある
かつてテルグレンという人間と戦った城

「・・・・ここは人間の国だったはず、何故兄さんはこんなところに」

そう思いながらガリシィルは足を歩める
そして城門の前にやってきた
すると門の前に同じ銀髪の竜が待ち構えていた
そうガリシィルが会いたかったとうの本人だ
「やっぱり来たねガリシィル」
「兄さん、やっぱり分かっていたのか」
「まぁね、それよりどうしたんだい?」
「俺の病は治るのか?」
「・・・・・・」
「治らないのか?」
「・・・・僕が見る未来ではね、でも諦めちゃだめだ」
「・・・・・治らないと分かっていて諦めてはいけないとはどういうことだ?」
「僕について来てくれるかい?」
するとシリュウは城の中へ入っていった
ガリシィルは言われるままシリュウの後を付いていく
やがて王座の間にたどり着く
王座にはとても幼く見える竜が座っていた
「何の冗談だ、兄さんは餓鬼の世話をしているのか?」
「違うよ、彼女はバハムートの妹・・・・ヒリュティス様だ、それに僕らより数十倍は生きているんだ、見た目で判断しない方がいい」
「なん・・・だと・・・・」
「貴方がシリュウの弟ね」
ヒリュティスは王座から立ち上がるとガリシィルの方に歩み寄ってくる
「・・・・あぁ、そうだ」
ガリシィルの返答にヒリュティスはガリシィルの顔を覗き込んでは少し眉にシワを寄せた
「そうね・・・・・このまま行けば数年で死ぬかもしれないわね」
「あんたも未来が見えるのか!?」驚くガリシィル
「そうよ、でも未来は無限に広がっているの、本来なら貴方は私の姉によって殺されていたもの」
「僕が助けたからね」とシリュウ
「・・・・・・それで、俺が死なずに済む方法はなんだ?」
「私の息子に会いになさい」
「は?」
「貴方はアリュギオスから使命を託されたはずよ、つまりラハヴァの子孫を見つければそれで一つの目的は達成されるわ」
「ちょっと待ってくれ、あんた・・・・その身なりで息子がいるのか!?」
「そうよ、これでも数百年と生きているんだから当然よ、とはいえ子供を作ったのは最近なのだけれど・・・・・」
「・・・・・・・そいつは何処にいるんだ」
「ドラファールの村よ、確か今は守り竜になっているはず・・・・・」
「あぁ・・・・なんだか嫌な予感がするぞ、あんたもしかして・・・・ミストの姉じゃねーのか」
「あら、どうしてそれを?」
「やっぱりな・・・・生きているなら会いに行けばいいだろう、ミストもお前のことは死んだと思っているんだぞ」
「・・・・・私から会いに行く資格なんてないわ、あの一族の掟を破ったのだから」
「まぁ俺にはどうでもいいんだけどよ、どうしてこの国に?」
「誰かさんのせいでこの国の王が消えたからよ、国民を救うために私がこの国を治めたわけ、まぁ民には少し記憶を改ざんさせてもらったけどね」
「記憶を改ざん?そんなこともできるのか」
「言ったでしょ私はバハムートの妹だって、それよりミストを知ってるなら私の息子も知ってるみたいね」
「まぁ・・・会ったこと・・・あるしな」
「それなら話は早いわ、私のルイを支えてあげてくれるかしら」
「何故俺が? あんたの息子だ、あんたが母親として見るべきじゃないのか」
「私は・・・・姉に殺されたことにしているの、リュカにそう教えるよう頼んでおいたから」
「・・・・・・おれはごめんだぞ、あいつを支える理由がない」
「それが貴方が死なずに済む方法よ、それに病も治る時が来るわ」
「そんな馬鹿な」
「ガリシィル、ヒリュティス様の助言は素直に聞くべきだよ」
「兄さん、どうして兄さんはそいつの側にいるんだ」
「そうすべきだからだ、僕の未来予知は不完全なものだからね」
「・・・・・くそ、俺には未来が全くわからない、ほんとに言うとおりにすればこの病も治るのかよ」
「それは僕には分からないよ、僕の未来では君が何もせずリュリカの元で暮らして後数年で命を落とす未来しか見えないのだから」
「・・・・・・そうか、リュリカの元で暮らせば俺は死ぬのか」
「ガリシィル?」
「いや、なんでもない、ヒリュティスとかいったか、お前の息子にはあんたが生きてることを知らせても良いのだろうか?」
「・・・・できればしばらくは言わないでくれるかしら」
「どうしてだ」
「あの子の生死を左右するからよ、せめてあの子が旅を出るようになるまで待ってくれるかしら」
「あいつが旅に出るのか?」
「そうよ・・・そしてその旅こそが貴方の運命を分ける一つの分岐点でもあるの」
「そうなのか」
とガリシィルはシリュウの顔を見る
「だから僕にはそこまでの未来予知は出来ないんだよっ」
「分かった、じゃあしばらくは黙っておいてやる・・・・失礼するぞ」
「待ちなさい、私が現地に送るわ」
「なんだと?」
「ヒリュティス様!? そんな・・・またそのようなお力をお使いになられるのですか!?」
「シリュウ、そうでもしないとあなたの弟の身体はもたないわよ」
「俺の身体は俺が一番わかっている、今日は後一回ぐらいワープするぐらいは平気だ」
「あなたドラファールへ行ったことあるの? 今シアルフィアへ飛ぼうとしてるでしょ」
「・・・・・・なんでもお見通しというわけか」
「私の息子をよろしく頼むわよガリシィル」
「めんどくせぇが仕方ない、兄さん、リュリカには兄さんから伝えてくれないか」
「分かった、僕がしっかり事情を話しておくよ、話してもあの人は怒りそうだけど・・・・・」
「だろうな」
そんな会話をしてガリシィルはその場を後にした
ヒリュティスの転送魔法で瞬時にドラファールへと移動する

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

ドラファールに辿り着くや否や、目の前でいきなり人間がふっ飛ばされてガリシィルの目の前を通り過ぎていった
「な、なんだ!?」
突然の出来事に驚くガリシィルは人間が飛んできた方へ視線を変える
そこに僕は居た・・・・・。
まだ人間が一人、剣を担いで僕の前で驚いている

「馬鹿なっ!?、こっちの武器は『リジェル』から買い取ったドラゴンキラーだぞ! こんなチビドラゴンにいとも簡単にやられるとは・・・・」
「だれがチビドラゴンだっ!! こう見えてももうすぐ大人なんだぞっ!!」
この村の守り竜になってからもうすぐ15年目になる僕
両腕にはウィザードイーグルとイーグルファルコンが握られている
相変わらず身体の成長は乏しくまだ子供のような外見をしているがあれから髪がえらく伸びていた。
その容姿にガリシィルは驚いた
「まだ餓鬼のままじゃねーか・・・・どうなってんだ!?」
しかしその外見から凄まじい魔力が解き放たれる

「くらえっ!」
両腕の爪器で空を裂くと風を巻き起こす
僕の前にいた人間は地面から足が離れた
そして風の斬撃が人間に襲い掛かる
「うわぁぁぁぁ」
再び人間がガリシィルの目の前を通りすぎて村の入口まで追い返された
僕は走って追いかけるが
そこでガリシィルの存在に気づく
僕はガリシィルの前までくると足を止めた
「君は確か・・・・・」
「ガリシィルだ、それよりいいのか?」
「ぇ、何が?」
「あいつら逃げてくぞ?」
「あーっ!?」
僕がガリシィルに気を取られているうちに先ほどの人間達は立ち上がると
僕とガリシィルが会話する様子を見てアヴィストル山の方へと走り去っていく

「くっ・・・銀髪の竜まで来るなんて・・・・ロプティウス様に報告しなければ・・・・・」

僕にやられた一人がそう呟いたが、僕達には聞こえなかった
「で、今のはなんだ?」
「僕が知るわけ無いだろっ! でも・・・・・いつもの山賊達じゃなかったから、最近噂になってるハンター達かもしれない」
「ハンター・・・・か、まぁいい、それよりお前に頼みがある」
「僕に?」
「しばらくお前の住処に留まらせてくれ」
「はぁ、別にいいけどさ」
突然の発言につい了承してしまったが すぐに気が付き僕は声を上げる
「って、えぇぇぇええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「うるさいぞっ」
「いきなり何を言うんだよ! それって僕の家に住むってこと!?」
「そうだが」
「いやいやいやおかしいだろっ 君と僕は赤の他人のはずだろっ」
「そうでもない、お前は俺の従兄弟にあたるらしい」
さり気なく僕が古代竜の血筋であることをネタバレするガリシィル
当然、僕は驚いた
「な、なんだってー!?」
「とにかくだ、一度了承したんだ、いまさらダメだとは言わせないぞ」
「ちょっとまってよ!寝床は1つしかないんだよ!? あ・・・いや、父さんのベットがあるから2つあるのか・・・・」
「よし、決まりだな」
ガリシィルは僕の左肩に手を乗せる
その途端ガリシィルの姿勢が急に崩れて地面に倒れてしまう
僕は驚いた
「えぇっ!? ちょっと・・・・」
「ゴホッ・・・ゴホッ・・・ゴブッ」
ガリシィルは咳き込んだと思ったら急に吐血する
その容態に僕は心配する
「だ、大丈夫なの!?」
「・・・・なんでもない」
「なんでもないことないだろ!? だって血吐いてるし・・・」
「いいから家に案内さ・・・・・」
そこでガリシィルは気を失ってしまう
僕は両腕の爪器を外して彼を抱えた
「医者に診せないと・・・・しっかし思ったより軽いなぁ」
幼い外見の僕でさえ軽々と持ちあげることが出来た
僕はそのまま自分の家へと運んではベットに寝かしつけると村の医者を呼ぶことにした

しばらくして

「どうです? なんとかなりますか?」
ベットの横で村医者がガリシィルの容態を診察し終えて僕に口を開く
「私にはどうすることも出来ない」
「そんな!?」
「彼の身体はとっくに限界を迎えているんだ、生きている方が不自然だよ」
「・・・・・何かの病気なんですか?」
「私には分からない、ただ・・・胸の傷跡から察するにロクに治療してなかったみたいだ、それが原因かもしれない」
「回復魔法とかで治りませんか?」
「どうだろうね、一応やってみる価値はありそうだ、確か君も出来たよね?」
「あ、はい、一応は心得てあります」
「では、私と一緒に頼むよ、私一人の力では足りななさそうだからね」
医者はそういうとガリシィルの身体に触れて回復魔法を試みる
僕もわずかながら協力した

リカバリアヒールッ!

ガリシィルの身体が癒しの光に包まれた
外傷は特になかったためか、変化に気づけないがやるだけのことはやってみた
「うん・・・これでダメなら、諦めるしかないね」
「そうですか・・・・」
「まぁ、私は名医ではないからね、他の医者にも診せたほうがいいかもしれない」
「他の医者ですか?」
「そうたね、有名なドクターGに診てもらうのが一番いいかもしれない」
「ドクターGって?」
「本名は知らないが、医者達の間では神の手(ゴッドハンド)として有名な医者だよ」
「その方は何処にいるんですか?」
「そこまではわからないよ、私も噂程度でしか聞いたことがないからね」
「そうですが・・・・」
「しっかし驚いたよ、まさかあの銀髪の竜がこんな容態だとはね」
「銀髪の竜って?」
「知らないのかい? 彼は過去に人間達と手を組みバハムートを倒そうとして世間ではかなり有名人だよ」
「えぇ!?」
「結局バハムートは今も生きているんだけど、突然世界征服をやめたし彼も生きてるってことは・・・・何かあったんだろうね」
「・・・・・そうなんですか」
「それじゃ、私はこれで失礼させてもらうよ、他の患者が待っているからね」
「あ、はい、ありがとうございました」
僕は医者を見送ると眠るガリシィルに視線を向ける

『君は一体・・・・』

それからしばらくガリシィルは僕の家に居候することになる
その後、シリュウから事情を知らされたリュリカが僕のところに尋ねてきた
そこで初めて彼には妻と息子がいることを知ったわけだけど
結局、彼は妻の家に帰ることはなかった・・・・・。
そして、彼がこの村に来てから村の子供が賊に攫われる事件が何度かあった。
それらは彼と共に無事に解決するも、彼はただ付いてくるだけで何もしなかったよ

ただ、あの日は少し違った。
彼が来て3ヶ月ぐらいが過ぎただろうか
いつものように僕は村を見まわっていると村のメス竜が慌ただしく駆け寄ってくる
「守り竜さん助けてくださいっ」
「どうしたの?」
「実は私の息子が何者かに攫われてしまったのです」
「また・・・人(竜)攫いか、最近多いなぁ、攫われた場所は?」
「北にある森です」
「北の森ってドラファールの森?」
「そうです、森の奥にある泉で水浴びをしているところをいきなり・・・・」
「だからあれほど村の外に出ないでって言ってるのに」
「すみません、森の泉はこの村の水辺より綺麗なので」
「・・・・・とにかく、現場に行ってみるよ、村で待ってて」
「絶対助けてくださいねっ」
そこへガリシィルもやってくる
「ルイ、腹が減ったぞ、今日の昼飯はなんだ?」
「もー、たまには自分でなんとかしてくれよ、僕はこれから攫われた子供を助けに行かなきゃいけないんだっ」
「またか、こんな辺居な村なのにかなり物騒だな」
「いや、村の中はまだ安全だよ、事件が起きてるのはいつも村の外だからね、それに君が来てからだよ、人(竜)攫いが起き始めたのはさっ!!」
「まじかよ、だったら俺も行くか・・・・・」
「いやいいよ、君はいつも何もしないんだから、それに病人なんだし家で大人しくしててよ」
「俺のせいでこんなことが起きてるなら行かない訳にはいかない、それに今日は調子がいいんだ今日は役に立つぜ」
「・・・・・ほんとかよ」
「とにかくその北の森に行ってみようぜ」
「え!? さっきの話聞いてたの?」
「まぁな」
ガリシィルはそういうと翼を広げた
僕も遅れまいと追いかける
ドラファールの森は意外にもすぐ近くにある
村を離れて5分もすれば飛んでいける距離だ
とはいえ距離的には10kmぐらいはあるかも
森の入口に降り立つガリシィルと僕
「ここがドラファールの森だよ」
「一見普通の森だな」
「奥の方に泉があるんだ、そこで子供が攫われたみたい」
「なんでこんなところまで来たんだ?」
「攫われた子の親が言うには、村の水辺より綺麗だからってさ、他にも理由があるとすれば女神がいるっていう噂を信じてるのかも」
「その泉には女神がいるのか?」
「噂だよ噂、実際に見た人はいないしね」
そんな話をしているとガリシィルは急に足を止めて辺りを見渡す
「どうしたの?」
「いや、案外女神がいるって噂は本当かもしれないぜ」
「えっ、どういう意味?」
「とにかく泉にいくぞ、子供を攫った犯人の手がかりは掴めそうだ」
ガリシィルは再び歩み始めた
しばらくすると僕達の目の前に その泉が姿を現す
森が少し開けて真ん中に泉がある
奥には川となって森のなかへと続いている 奥には洞窟も見えた
「ここが攫われた現場かぁ、争った形跡はないみたいだね」
「その親が言うにはいきなりの出来事だったんだろ? 闘う暇もなかったってことじゃねーのか?」
「そうかもしれないね」
僕は泉の周りをぐるりと歩いて辺りを見渡した
とても手がかりが見つかるとは思えない
「今回は流石に助けられないかもしれないなぁ、この辺に賊がいるって話は聞かないし・・・・・検討がつかないよ」
そこへ一人の男が現れる

「ガリシィル、お前ガリシィルじゃねーかっ」
黒いローブに身を包んだ人間が突然僕達の後ろから声を掛けた
僕は振り向き首を傾げた
「誰だろう?」
「お前は確か・・・アルカティスのレスクか? 久しぶりだな」
そこへ現れたのはアルカティスの神子族のレスクだった
14年前から比べると姿は大して変わっていないようだが、背はかなり伸びていた
「もしかして隣にいるのは噂で聞く蒼風の守護竜か?」
「僕はルイ、ドラファールの守り竜だよ!、ところで蒼風の守護竜って?」
「人間のハンター達の間ではあんたはそう呼ばれてるようだぜ」
「そうなんだ・・・・」
「自己紹介が遅れたな、俺はレスク、レスク・セイファート、見ての通り神子族だ」
「神子族? 僕には人間にしか見えないなぁ」
「神子族はただの人間とは違って精霊の力を使えるんだ、それに寿命もそれなりに長い、ところでどうしてお前がこんなところにいる?」
ガリシィルは砂漠のアルカティスから遠く離れたこの緑の地に現れたレスクに問いかける
するとレスクは泉の方へ指をさす
「俺が今回を旅をしている理由は世界中の精霊と契約を交わすためだ、この地には女神がいるという噂を聞いてな、もしかしてと思ったんだ」
「精霊って実在するんだ・・・・。、童話のお伽話だと思っていたよ」
「精霊は滅多に人前には出てこないからな」
ガリシィルはルイに言った
「それでお前らはどうしてこんなところに?」
「あぁ、実は村の子供がここで何者かに攫われたらしい」とガリシィル
「人攫いか?」
「うーん、正確には竜攫いになるのかなぁ」
「・・・・・いやな予感がするな、俺に心当たりがある。」
レスクは視線を逸し
過去に戦ったキメラを思い出した。
あれからハンター組織『リジェル』の事を嗅ぎ回ってはいるものの
リルの仇であるレディアルを見つけ出すことはできないでいた
「もしかするとリジェル達のしわざだろう」
「リジェルって?」
「最近噂になっているハンター達の組織だ、6年前に雷竜の国を滅ぼしたのもそいつらの仕業だ」とガリシィル
「でも、一体何のために竜を攫うんだ!?」
「おそらく生物兵器の実験体として連れ去られているんだろう、俺は過去に様々な生物を掛けあわせたキメラと戦ったことがある」
レスクはキメラの事を話した
ガリシィルとルイは驚く
「まさかそんなことをしている連中だとはな、初耳だぞ」
「僕も信じられないよ・・・・魔物を作るために子供を攫うなんて」
「それだけじゃない、あいつらは精霊のマナも搾取しようとしている」
「なんだって!?」
「多分、精霊石を作るためだろう、人口精霊を作っているのもあいつらだ、俺はあいつらを許せない」
頭のなかではレディアルの顔がチラついていた
少しイラつくレスク
「レスク、この地に精霊がいるのは確かだ、その精霊からそいつらの居場所を訊けないだろうか?」
「どうだろうな、まずは精霊と会う必要がある」
レスクは僕達の方へ近づいて、泉の中へ足を入れる

『我が呼びかけに答えよ・・・・いでよ、ウンディーネッ!!』

そう言うとレスクは片手を泉に叩きつけた
その瞬間レスクの前にウンディーネが姿を現す
初めて見る精霊に僕は関心した
「それがこの地に眠る精霊なの?」
僕は尋ねた
するとレスクは首を横に振るう
「いや、こいつはすでに契約を交わしている精霊だ、今からこの泉を変形させる」
「ぇっ!?」
「ウンディーネ、この地の精霊を呼び出すためにはお前の力が必要だ」
「わかっています、少し待ちなさい」
すると水の精霊であるウンディーネは泉を真っ二つに引き裂いた
そしてウンディーネはやることを終えて姿を消す
突然の出来事に僕は驚いた
「ちょっとっ そんな乱暴な!?」
「ルイ、よく見てみろ泉の中心にある底に何か突き刺さっているぞ」
ガリシィルがそれに気づいて指をさす
「あっ、ほんとだ・・・・・」
「あれは石碑だ、精霊がいる場所にはだいたいああいうのがあるんだぜ」
レスクはそう言うとウンディーネの力で水が裂けて通路になった泉の中を歩き始めた。
僕達のレスクの後を追う
石碑の前にやってくるとレスクはすぐにその石碑を解読し精霊を呼び出す

『我が呼びかけに答えよ・・・・月の女神よ』

その途端 石碑から突如光が発し
僕達の目の前に三日月形の浮遊物に腰掛けた金髪の美女に化けた妖狐が現れる
「我の・・・長き眠りを妨げるのは誰じゃ・・・・」
少し眠そうな顔をする精霊
「ルナ、力を貸してくれっ」
レスクが言うにはこいつはルナ、月の精霊らしい、
こんな森の泉の底にずっと眠っていたなんて僕は驚きだよ
「・・・・・・神子と竜?、ルクセア達の子孫か?」
「こいつらは多分関係ない、が・・・・・俺はレスク、レスク・セイファートだ」
レスクは右手を胸に左手を広げた
「そうか、我はまだ眠い・・・・儀式は省略させてもらう」
「なんだと?」
「ただで契約してやると言っているのだ、ウンディーネと契約してるなら実力はあるようだしな」
「・・・・・それはありがてぇが、一つお前に聞きたいことがある、お前のマナを搾取していた奴がいたはずだ、何処にいるか分かるか?」
レスクの問にルナは不機嫌そうな顔をすると
何も語らず指を後ろに向けた
泉の川が続く奥には洞窟がある
「そこにいるのか?」
「・・・・・行けば分かる、それより手を出せ」
ルナに言われてレスクは手を差し出した
ルナはレスクの手を取ると掌を合わせた
「我と汝は契約を承諾する」
そういうとルナはどこかへ消えてしまった
「・・・・儀式を省略する精霊なんて初めて出会ったぞ」
「それより洞窟に行ってみようよ」
「そうだな、悪いなレスク、俺達は行くぞ」
「待て、相手が『リジェル』なら俺も行く、あいつらには俺も少しばかり恨みがある」

そうして僕達は ドラファールの森の奥にある洞窟へ向かった

続く